歴史に翻弄された小王国
フランス、ドイツ、オランダ、ルクセンブルクと国境を接し、ヨーロッパのほぼ中央部に位置する国、ベルギー。交通の要衝である同国の首都ブリュッセルには、EU本部やNATOといった国際機関が集まり、『ヨーロッパの心臓』あるいは『ヨーロッパの十字路』とも呼ばれている。だが、恵まれた地理的条件ゆえに、ベルギーは過酷な歴史を歩まざるを得なかった。
ベルギーの国家としての歴史は比較的浅く、1830年にオランダから独立して誕生した国である。しかしながら、地域としての歴史は古い。
歴史上にこの地方が登場するのは、ローマ帝国に併合された紀元前51年頃のこと。その後、3~5世紀にかけてゲルマン民族の大移動にさらされ、南部はローマ的、北部はゲルマン的と地域差が発生。中世から近世には、南部と北部の地域それぞれが英国、フランス、ドイツ、スペイン、オランダなどの複数の国による侵略を受けたことから、地域ごとに独自の文化が育っていった。そのため、1830年に単一国家ベルギーとして独立したものの、フランス語を公用語とする南部の住民と、オランダ語を公用語とする北部の住民とのあいだで『言語戦争』が頻発してしまう。激化していく対立を収束させるべく、政府は国家再編の決断を迫られた。そして試行錯誤の末に20年前の1993年、正式に南北境界線が引かれ、南部「ワロン地域」と北部「フランドル地域」が成立。そこに首都周辺の「ブリュッセル地域」が加わり、自立した3つの地域によって構成される連邦制国家という現在の体制が完成したのである。
ちなみに、ブリュッセルはこの言語境界線の北側(フランドル地域)に含まれるが、フランス語とオランダ語両方を公用語とする2ヵ国語地区となっている。
このような複雑な背景から、今日でも地域間での小さな争いが絶えない。チョコレート、ワッフル、花の絨毯などから想像される「ヨーロッパの上品な小王国」というイメージの陰に、今なお変化し続ける強さとたくましさ、そして葛藤を秘めた国といえよう。
アニメ・シリーズ「世界名作劇場」のネロ(右)とパトラッシュ(左)、
後ろにいるのは友達のアロア。
英文小説『フランダースの犬』の表紙(講談社インターナショナル)