■ 第245話 ■ラスプーチンと血友病
▶グレゴリー・ラスプーチン。帝政ロシア最後の皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后に重用された怪僧で祈祷師。シベリアの寒村生まれで学校に通わなかったため読み書きが出来なかった。素行不良の若者だったがある日宗教に目覚め家族を残して巡礼の旅へ。その間、マリヤ様から啓示を受けたとかで熱心な修行僧となった。その後、人々に病気治療を施すようになり「神の子」と称された。この頃のロシアは神秘主義やスピリチュアルが大流行。「病気を治す僧侶がいるらしい」と聞かされた皇帝夫妻はラスプーチンを宮殿に召喚。アレクセイ皇太子の血友病治療のためだ。1907年4月、ラスプーチンはアレクセイの治療にあたった。治療と言ってもラスプーチンに医学的知識も技術もなし。医師たちは「治せるわけない」と高をくくった。ところがラスプーチンが祈祷を捧げるとあら不思議、アレクセイの症状がたちまち改善。皇帝夫妻は「すげ~」と瞳キラキラ。この一件でラスプーチンは皇帝夫妻のハートをガッチリ鷲掴み。アレクセイがなぜ回復したのかは今も謎。
▶すっかり上機嫌の皇帝夫妻。ラスプーチンを異常なほど寵愛した。宮廷の女性たちにも大人気。周りにはいつもラスプーチン信者の女性たちがいた。教養もなく胡散臭さ全開のあいつがなぜ?やがて「巨大な股間が女たちを虜にしているのだ」との噂が広まった。サンクトペテルブルクの博物館にはアルコール漬けにされたラスプーチンの立派な持ち物が展示されている。本物かどうかは分からない。アレクサンドラ皇后があまりに寵愛するものだから宮廷では2人のラブロマンスも噂された。どこの国民もゴシップ大好物。調子に乗ったラスプーチンは政治にも介入し始めた。「こいつ嫌い。あいつダメ」など人事にも口を挟んだことで貴族たちの怒りを買った。アレクサンドラがドイツ人だったためラスプーチンとセットでドイツスパイ説も拡散した。こうして貴族の不信と怒りは沸点に達する。
▶第一次世界大戦真っ只中の1916年12月17日、ラスプーチンは貴族らに招待され宮殿を訪れた。そこで青酸カリ大盛プチフールと紅茶を馳走になった。「アウウッ、おのれ、やったな~」になるはずだったがなぜか「美味い~」と言って完食・完飲した。「どうなってんの?」。仕掛人たちボー然。数時間後、貴族らは泥酔したラスプーチンの心臓と肺を銃で撃ち抜いた。「やったか」。次の瞬間、ラスプーチンはムクっと立ち上がって貴族らを睨みつけた。貴族たちはさらに銃弾を浴びせた。まだ死なない。「どうなってんの?」。最後に額を撃ち抜き、ラスプーチンはようやく動かなくなった。遺体は凍てつく川に棄てられた。ほとんどホラー映画でちょっと眉唾。ラスプーチンを重用し過ぎたことで皇帝に対する国民の不満が爆発。戦況や食糧事情の悪化もあってロシア革命に繋がっていった。
▶血友病。血液が固まりづらくなる遺伝性の血液凝固異常症だ。ヴィクトリア女王が血友病持ちでそれが子孫たちに遺伝した。症状が出るのはほぼ男子のみ。それがヴィクトリアのひ孫、アレクセイ皇太子に出た。ロシア以外、イギリスはもちろん、スペインやドイツに広がったヴィクトリアの子孫たちが血友病で命を落とした。血友病と闘ったアレクセイだったが1918年、ロシア革命時に捕えられ銃殺された。まだ13歳だった。ってな辺りで次号に続くぜ。チャンネルはそのままだ。
週刊ジャーニー No.1367(2024年11月7日)掲載
他のグダグダ雑記帳を読む