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■ 第243話 ■デイリーテレグラフ事件って何?

▶ドイツのビスマルクが推し進めた「フランスの孤立化」と「勢力均衡」。ヴィルヘルム2世はそのビスマルクを排除し「航路は従来のまま。ただし全速前進!」と叫んでビスマルクが築いた奇跡の外交体制を全部ぶっ壊していく。前々回同様、ヴィルヘルム2世の治世を同族大企業の3代目社長になっちゃったボンクラ3代目社長の転落物語と思って眺めると分かりやすい。ヴィルヘルムは「ドイツはもはや世界帝国じゃ~」と豪語。ロシアとの再保障条約を延長せずドイツ単独の「世界政策」を推し進めて行く。ドイツは元々フランスやロシア同様、陸軍国家。祖母ヴィクトリア女王のイギリスは圧倒的な海軍力で世界に君臨していた。「だったらうちも海軍じゃ~」。てなこってヴィルヘルム、突然ドイツ艦隊増強に邁進。そしてイギリスと派手な建艦競争を繰り広げ、世界をアタフタさせてゆく。

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▶ポンコツ若大将の世界膨張政策は止まらない。ドイツ帝国はベルリン、ビザンティウム(イスタンブール)、バグダッド、3つのBを結ぶ鉄道の建設構想をぶち上げた。3B政策だ。これはカイロ、ケープタウン、カルカッタの3C政策を推進するイギリスを大いに刺激。さらにバルカン半島ではスラブ民族と対立していたオーストリアを汎ゲルマンという理由で後押し、再保障条約をぶった切って関係が怪しくなっていたロシアも刺激。さらにアフリカではモロッコ進出を目指すフランスにドイツが「ちょっと待った~」と介入して対立。ヨーロッパ中が「最近のドイツ、生意気じゃね?」になっちゃった。そのためイギリス、フランス、ロシアは連携を強め露仏同盟、英仏協商、英露協商などを次々と結んでドイツ包囲網を敷いた。ビスマルクによる完璧な包囲網で孤立していたフランス。ところがヴィルヘルムが推し進めたドイツ帝国膨張政策により1907年までには逆にドイツがほぼ孤立。真っ黒だったオセロの盤上。気づけば真っ白になっていた。こんな下手くそオセロ、ある? 歴史上では結構あるのよね。

第1次世界大戦直前のヴィルヘルム
第1次世界大戦直前のヴィルヘルムですが、何か?

▶さすがのヴィルヘルムもヨーロッパで孤立しつつあることに気づき始めた。こんな時、ビスマルクならどうする? 助言を求めたいけど天才外交家は既に他界。アチャ~。1908年10月28日。英紙デイリーテレグラフにヴィルヘルム2世と英軍大佐の対談記事が掲載された。ヴィルヘルムは英独友好の雰囲気を盛り上げる起死回生の好機と捉えていた。しかし軽薄おしゃべり男が語った内容は全て裏目に出た。語りの内容はその場しのぎ的で傲慢かつ薄っぺら。イギリスが南アで死闘を繰り広げたボーア戦争に関しては「私が作戦計画をイギリスに教えてやったのよ」なんてドヤ顔で言っちゃってイギリス人の神経を逆なで。


▶各国が懸念していたドイツの艦隊建設に関しては「亡き祖母ヴィクトリア女王の国を敵に回すわけなし。我々の仮想敵国は日本だ」と発言。批判をかわすつもりだったけど、これを挑発と捉えた日本で対独感情一気に悪化。フランスやロシアも「ダメだこりゃ~」と呆然。緊張緩和を目的として臨みながら逆に緊張の糸がピン張り状態になっちゃった。少し盛ったけどこれが「デイリーテレグラフ事件」だ。やがてヨーロッパ各地で不満と不信の可燃性ガスが噴出、そして充満。そんな時、サラエボで1本のマッチが擦られてボンッ。第一次世界大戦の始まり始まり~ってな辺りで次号に続くぜ。チャンネルはそのままだ。

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週刊ジャーニー No.1365(2024年10月24日)掲載

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