
■ 第241話 ■ヴィクトリア女王の孫、大暴走
▶普仏戦争に敗れたフランス。ただでさえ悔しいのにベルサイユ宮殿でドイツ帝国戴冠式をやられてフランス人のプライドはズタボロ。「この借りは必ず返す。10倍返しだ」になっちゃった。ドイツは大国になったけどロシアやフランス、英国、オーストリアという強国に囲まれ、危険と隣り合わせであることをビスマルクは熟知していた。彼の狙いは2つ。「勢力均衡」と「フランスの孤立」。そこで本来仲悪いけどロシア、オーストリアと三帝同盟結んで安全確保。でもまだロシアがおそろしあ。そこでロシアと「再保障条約」を締結。三帝同盟があるのに二重に安全を保障し合う周到な条約。イタリアがフランスとチュニジア争奪で揉めているのを知るとそっとイタリアに接近。オーストリアも巻き込んでここも不仲だけど三国同盟を締結。「光栄ある孤立」を続けるイギリスに同盟は断られたけど、婚姻を通じて王室間の親戚関係樹立。これで鉄壁のフランス包囲網が完成。オセロゲームで言うなら白のフランスはコーナーに追い込まれ、盤上はほぼ真っ黒に染まった。
▶ドイツのヴィルヘルム2世は1859年、ベルリンで生まれた。逆子の上に大変な難産で左半身に麻痺が残った。母親はヴィクトリア女王の長女ヴィクトリア(愛称ヴィッキー)。学業優秀だったと言われるヴィッキーはヴィクトリア女王の名に恥じぬ孫に育てるためヴィルヘルムを厳しく育てた。ところがヴィルヘルム、なかなか残念な出来。おまけに障害を抱えるヴィルヘルムにヴィッキーは密かに嫌悪感を抱いた。親にも問題あるな。母は近衛将校団の中で「イギリス女」と嫌悪されていた。息子のヴィルヘルムもまた「半分イギリス人」と陰口を叩かれて育った。こういった体験からヴィルヘルムの性格は歪み、いつしか母と母の祖国イングランドを憎み、敵意を抱くようになっていったと言われる。

▶1888年、祖父ヴィルヘルム1世が死んだ。父が即位してフリードリヒ3世となったがわずか3ヵ月後に喉頭がんで死去。ヴィルヘルムは帝王学を授かる前に29歳にして即位。ヴィルヘルム2世が誕生した。同族経営企業に置き換えると分かりやすい。立派な創業者が老衰で死去。堅実な2代目が跡を継ぐもわずか3ヵ月後に病死。未熟なひねくれ息子が29歳で3代目社長になっちゃった。それでも剛腕の大番頭がいるから大丈夫。ところが3代目は社長になると全権掌握。何かと評価が高い大番頭が邪魔。難癖つけて辞任に追い込み「僕の方がデキる」と大暴走。やがて会社を破滅に追いやるってシナリオ。ヴィルヘルムはドイツ統一最大の功労者で天才外交家のビスマルクを自らの手で葬り去った。こうしてこの男がドイツ帝国を滅亡に導いてゆく。
▶まず暴走を止めようとする母親を幽閉。おばあちゃん(ヴィクトリア女王)に認めてもらいたいけどいつまでたってもハナ垂れ扱い。いつしかイギリスに敵対心メ~ラメラ。「世界政策」と呼ばれる帝国主義的膨張政策の展開を始める。1890年、再保障条約の延長を求めるロシアを無視して条約解消。ヴィルヘルムはウルトラ汎ゲルマン主義。人種的に劣ると信じるスラブ人と組むのは面白くない。ここにビスマルクが築き上げてきた神業とも言えるヨーロッパ奇跡のバランスが綻び始めた。やがてオセロの黒石は次々にひっくり返され、盤上が白一色に染まっていく、ってな辺りで次号に続くぜ。チャンネルはそのままだ。
週刊ジャーニー No.1363(2024年10月10日)掲載
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