■ 第239話 ■ビスマルク、人生最大の過ち
▶第一次世界大戦を引き起こしたとされるドイツ帝国ヴィルヘルム2世。この男を知るにはまず母親を知らねばならない。ヴィルヘルム2世の父はドイツ皇帝フリードリヒ3世。母はヴィクトリア女王の長女ヴィクトリアだ。母子同じ名前でややこしいので愛称のヴィッキーで進める。ヴィッキーは5歳で英語の他ドイツ語、フランス語、ラテン語をマスターした。父アルバート公に似て聡明だったらしい。こう書くと母親のヴィクトリア女王が聡明じゃなかったように響くが、聡明じゃなかったと思うから意地張って訂正しない。ヴィッキーが嫁いだ頃、ドイツはまだ統一前夜で大小数あるゲルマン諸侯の集合体だった。なので正確に言えば彼女が嫁いだ先はオーストリアと並ぶ強大領邦国家プロイセン王国。
▶この時、プロイセンの鉄血宰相ビスマルクはゲルマン人の国じゃないハンガリーとくっついていたオーストリアを除外し、ゲルマン人だけの統一国家を作ろうと画策していた。産業革命が進み急成長するドイツだったけど東はロシア、西にフランスという大国に挟まれるという地政学上の弱点があった。絶対にフランスとロシアを同時に敵に回しちゃダメ。両面戦争になったらジ・エンド確定。ビスマルクは勢力均衡を図りつつ周辺各国と次々に「仲良くしようね」と協定を結んだ。大嫌いなロシアとも組んだ。狙いはフランスの孤立化。そんな中「光栄ある孤立」と看板掲げて同盟話に一切乗って来ないスカした奴がいた。イギリスだ。もしもフランスがイギリスに接近し対独盟約でも交わしたら激ヤバ。そこでビスマルクは英王室に接近。「あの~、同盟が無理なら親戚関係なんてどうでしょう?」と縁談を持ち掛けた。それがプロイセンのヴィルヘルム1世長男フリードリヒ(愛称フリッツ)とヴィクトリア女王の長女ヴィッキーだ。この縁談にドイツ統一を願うドイツ人でヴィクトリア女王の夫アルバート公もノリノリ。
▶2人は1851年開催のロンドン万博で引き合わされた。この時フリッツ19歳。ヴィクトリアは10歳。2人は文通で愛を育んだ。19歳男子が10歳の少女相手に一体何を書きゃ愛が育つんだ? 2人は7年後に結婚。プロイセン王室は英王室と姻戚関係となった。ここまで登場人物、全部ドイツ人。何度でも嘆き、何度でも叫ぶ。アングロサクソンどこ行った? プロイセンに嫁いだヴィッキー。血筋的には純粋にドイツ人だけどプロイセンでは「イギリスから来た女」と警戒された。しかしプロイセンのため身を粉にして働き、次第に国民に受け入れられていった。そして男児を出産。これがヴィクトリア女王の孫で、後に日本にも害を及ぼすヴィルヘルム2世だ。
▶統一ドイツを目指すビスマルクがナポレオン3世を挑発したことで普仏戦争が勃発。プロイセンが圧勝した。ビスマルクは19世紀ヨーロッパ最強の剛腕政治家だったが、ここで人生最大、超ド級の過ちを犯した。ドイツ帝国誕生を世界に誇示すべく、ドイツ建国祝賀と初代皇帝ヴィルヘルム1世の戴冠式をあろうことか敵地ベルサイユ宮殿でやっちまった。プロ野球で言えば阪神タイガースに勝利した読売ジャイアンツが甲子園球場で派手に優勝祝賀会をやったようなもんだ。遥かにスケールちっちゃいけど。フランス国民が「この屈辱、一生忘れへんで」とドイツ人を恨むのは必至。事実そうなっちゃう、ってな辺りで次号に続く。チャンネルはそのままだ。
週刊ジャーニー No.1361(2024年9月26日)掲載
他のグダグダ雑記帳を読む