■ 第238話 ■♬双子じゃないのよ僕らは、ハッハ~ン
▶前号でヨーロッパ、特に大国は親戚関係に近いと言った。筆者はヨーロッパを合衆国のように捉えている。事実、EUでそうなった。そう思うようになったのには理由がある。各国王族同士の婚姻だ。庶民が国際結婚してもおめでたいだけ。しかし国家君主ファミリー同士となれば話は別。なんせ生まれて来る子たちは両国君主家の血を受け継いでいる。「めでたく親戚同士となった両国、いつまでも仲睦まじく暮らしましたとさ」となればいいんだけど、そうならないのが人間界。帝国主義の陣取り合戦が、それまで辛うじて均衡を保っていた親戚関係をぶっ壊していく。
▶写真を見て欲しい。立派な髭をたくわえた2人の男性。そっくり。双子? 違う。兄弟? 違う。そんじゃ誰なの? 右は故エリザベス2世のおじいちゃん、ジョージ5世。では左は? ロシア皇帝ニコライ2世だ。ロシア皇帝と英国王がなんで同じ顔して仲良く一緒に写真に納まってるの? 筆者は彼らの関係性を理解するため、両家の家系図をノート3ページに渡って描き続け、ようやく理解した。数ヵ国をまたいでパズルのように複雑に絡み合った家系図からここでは不要と思われる人物を削ぎ落とし、可能な限りシンプル化してみた。すると鼻血ブー的事実が浮かび上がって来た。ジョージ5世の父エドワード7世(ヴィクトリア女王の長男)の妻、つまりジョージ5世の母親はデンマーク王室から英王室に嫁いだアレクサンドラ・オブ・デンマーク。一方のニコライ2世。父親はアレクサンドル3世で母親はマリア・フョードルヴナ。マリアはデンマーク王の次女で英王室に嫁いだアレクサンドラの実の妹。よってジョージ5世とニコライ2世は母親が姉妹。ということでジョージ5世とニコライ2世はいとこ同士となる。それぞれの母親が姉妹だと、いとこ同士はこんなに似ることがあるのね。
▶家系図なしで説明するのは至難の業だが筆者の挑戦は続く。ニコライ2世、実はさらに英王室に近い。ヴィクトリア女王と夫アルバート公は9人の子をもうけた。次女アリスはドイツのヘッセン公ルートヴィッヒ4世に嫁いだ。アリスの4女アリックスはロシアのニコライ2世と恋に堕ち結婚した。2人は共にキリスト教徒だったけどアリックスはルター派、ニコライ2世はロシア正教。相容れない。さんざん迷った挙句アリックスはロシア正教に改宗。アレクサンドラ・フョードルヴナという新しい名前を与えられた。ここでアリックスがアレクサンドラになっちゃうから関係性が分かりづらくなっちゃう。まとめると「ロシア皇帝ニコライ2世の妻はヴィクトリア女王の孫。よってニコライ2世はジョージ5世のいとこであり、ヴィクトリア女王の孫の婿殿」となる。これで全員繋がった。
▶ヴィクトリア女王にはもう一人、無視できない超有名な孫がいる。女王と同名で長女のヴィクトリア(ヴィッキー)はドイツ皇帝フリードリヒ3世に嫁ぎ8人の子をもうけた。その長男がヴィルヘルム。ヴィクトリア女王の孫の一人だ。1888年、祖父ヴィルヘルム1世が崩御。長男が即位してフリードリヒ3世となるが、わずか3ヵ月後に喉頭がんで死去。その長男ヴィルヘルムが29歳でドイツ皇帝・プロイセン王に即位しヴィルヘルム2世となった。そしてこの世間知らずの勘違い小僧が数々の問題を引き起こしていく、ってな辺りで次号に続く。チャンネルはそのままだ。
週刊ジャーニー No.1360(2024年9月19日)掲載
他のグダグダ雑記帳を読む