■ 第237話 ■アングロサクソン、どこ行った?
▶ヴィクトリア女王の前半生を書いていたのが去年の今頃だ。後半生ではヴィクトリア女王と王室、大英帝国がどのようにロスチャイルド家に篭絡(ろうらく)されて行ったかを書くつもりでいた。ロスチャイルドはユダヤ人。ユダヤ教のことをもっと知りたいと思い旧約聖書に手を出した。旧約聖書は思っていたものと全然違った。ラブ&ピースとは無縁。特に前半は殺戮とエロと裏切りと「んなアホな」の豪華詰め合わせ。そこら辺の小説より遥かに面白くて気づけばすっかり虜。しかしそろそろヴィクトリアに戻らねば。ところが前号で第一次世界大戦に軽く触れてしまい筆者の「聞きかじったことを他人に言いたがる不治の病」再発。こうなるともう誰にも止められない。てなこって本欄また少し暴走ね。
▶ヨーロッパ史を学んでいると思い至ることがある。ヨーロッパは親戚同士が集まった一つの国家のようだ。ハプスブルク家が婚姻政策を行っていたことは有名だ。しかしこれはハプスブルク家に限らずどの国でも普通にやっていた。ヘンリー8世の最初の妻キャサリンは大国になりつつあったスペイン王の次女だ。男児を産まずヘンリーに棄てられるけどね。神聖ローマ帝国のカール5世はキャサリンの甥っ子だ。ヘンリー8世が死んでキャサリンとの一粒種メアリーが女王になるとママの故郷スペインのフェリペ2世と結婚した。ところが異母妹エリザベスはそのスペインと戦争し無敵艦隊を撃滅。エリザベスが独身のまま死んだためチューダー朝断絶。スコットランド出身のジェームズ1世が誕生した。スチュアート朝だ。嫁はデンマークから迎えた。長男チャールズ1世の嫁はフランスから、その子チャールズ2世はポルトガルから王妃を迎えた。スチュアート朝が絶えると今度は現王室に繋がるハノーバー朝となった。ドイツ系だ。ジョージ1世から2世、3世、4世と、妻もみなドイツから呼びよせた。英王室内はドイツ人だらけ。ヴィクトリア女王もドイツ系。そしてドイツ人アルバートと結婚。長男エドワード7世がやっとデンマークの王女と結婚し、久々にドイツ人以外の血が入った。え~っと、アングロサクソンどこ行った?
▶政略結婚を繰り返したヨーロッパだったが、蓋を開けてみたら結局ほぼ役に立たなかった。ヨーロッパはず~っと戦争を繰り返していた。むしろ政略結婚がアダとなり、それが引き金となった戦争も多い。いわゆる王位継承戦争だ。スペイン継承戦争やオーストリア継承戦争などがそれ。不仲の国に姫たちを嫁がせるから、いざ君主が死ぬと血縁者たちが「オラがオラが」と大騒ぎ。ウィリアム1世もエドワード懺悔王が死んだ際、遠い血の繋がりを主張してイングランドに攻め込んできた。要は親戚同士の醜い家督争い。
▶ハプスブルク家の婚姻政策の陰に隠れているけど、ヴィクトリア朝のイギリスもまた婚姻政策に積極的だった。ヴィクトリア女王は夫アルバートとの間に4男5女をもうけ、女子5人のうち四女以外は全てドイツ王族や貴族に嫁がせた。ヴィクトリアはイングランド人よりもドイツ人の方が優れていると考えていたと言われる。アングロサクソン、かわいちょ。そしてドイツ皇帝フリードリヒ3世に嫁いたのが同名の長女ヴィクトリア。そのクーでソーな長男ヴィルヘルムが歴史に残る災いを次々と引き起こしていく、ってな辺りで次号に続く。チャンネルはそのままだ。
週刊ジャーニー No.1359(2024年9月12日)掲載
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