
■ 第200話 ■ かかとの子、ヤコブ
▶預言者アブラハムの子イサクに双子の男児が産まれた。兄はエサウ。「毛深い」という意。弟はヤコブ。ヤコブとは「踵(かかと)」の意。毛深い兄エサウの踵を握って産まれた。兄は勇猛で狩猟を得意とした。弟は思慮深く家畜の世話を好んだ。この時代のアラビア半島、長男が全て。父イサクは兄エサウを偏愛した。ところが出産前、イサクの妻リベカ(レベッカ)は「兄が弟に仕えるようになる」との神の啓示を受けていたため弟のヤコブを愛した。15~16歳の頃、ヤコブは家で豆を煮ていた。エサウが狩りから戻って来て言った。「腹ペコだ。豆をくれ」。ヤコブは言った。「長男の権利を譲ってくれたら豆をあげるよ」。エサウは「分かった分かった」と受け流した。ヤコブは「誓ってくれ」と念を押した。「誓うから豆をよこせ」。他愛もない兄弟の口約束だがヤコブは8割がたマジだった。
▶時が流れいよいよ後継者をはっきりとさせる時が来た。高齢となり視力を失ったイサクはある日長男エサウを呼び、伝えた。「今から狩りに出て鹿を捕り、それで美味い料理を作っておくれ。食後、お前に祝福を与えよう」。これを柱の陰で聞いている人物があった。リベカだ。「祝福って世継ぎのこと? あらどうしましょ。一旦神様と誓約を交わしたら2度と変更できない。ああ、私のヤコブちゃんはどうなるの?」。そこでリベカは一計を案じた。ヤコブを呼び、告げた。「今から子ヤギを殺して持っておいで。それで母さんが美味しい料理を作るから、それを父さんのところに持ってお行き!」「ええ? それって詐欺っぽくない? だいたい僕、兄さんみたいに毛深くないからすぐにバレるよ」「腕に子ヤギの毛皮を巻いて行くのよ。バレないバレない。何かあったら母さんが呪いを全部引き受けるから!」。リベカ、神の啓示を受けたからとは言え肝の据わり方が半端ない。

▶ヤコブは母が作った子ヤギ料理を父の元に運んだ。「父さん、料理ができました」「ん? 誰だ?」「エサウです」「声はヤコブのようだが」。そう言うとイサクはヤコブの腕を触った。「おっ、この毛深さは確かにエサウ」。信じちゃった。イサクはヤコブが持ってきた料理とワインを平らげて言った。「さあエサウ、父さんに口づけを」。そしてイサクは「神が天と地の豊かな恵みをお前に賜りますように。多くの民がお前に仕え、ひれ伏し、兄弟たちの主人となり、お前を呪うものは呪われ、お前を祝福する者は祝福されますように」とエサウに化けたヤコブに全祝福を与えちゃった。
▶入れ替わるように兄のエサウが鹿を担いで帰って来た。何も知らず料理を作り、父の元へと運んだ。イサクは尋ねた。「お前は誰だ?」「長男のエサウですよ」「んなアホな、さっき祝福を与えたではないか。祝福は2度与えられない。じゃあさっきの男は一体誰だ?」。2人は同時に叫んだ。「ヤコブだ!」。兄エサウの怒りはどんな火山の噴火よりも激しかった。「ヤコブめ、騙しやがって。殺してやる」。怒髪天衝くエサウの怒りを見た母リベカはヤコブに告げた「逃げなさい。私が生まれ育った町に。あなたの伯父がきっと匿ってくれる」。こうして「祝福を横取りしたヤコブ」の14年に及ぶ逃亡生活が始まる。「んなアホな」の連続だがこれも「旧約聖書」創世記の中のお話。ヤコブの逃亡先ではさらに奇天烈な出来事が起こるが紙面が尽きた。チャンネルはそのままで、皆さん良いお年を。
参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他
週刊ジャーニー No.1322(2023年12月21日)掲載
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