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■ 第199話 ■「んなアホな」が止まらない

▶「旧約聖書」の創世記に夢中だ。なぜか。普通の物書きなら避けて通る「んなアホな」に溢れているからだ。まだ国家とか国境とかの概念が希薄な時代のお話。近代的な律法は存在せず、その時代の正義だけが正義。簡単に人も殺せば奴隷などは当たり前。女性は子を産む道具。同性愛、近親姦、獣姦、何でもあり。現代はテレビも書籍も「んなアホな」が激減し安全で無難。その分退屈になった。今書けば禁書間違いなしの「旧約聖書」だが、なぜか今でも聖なる書。「何を熱心に読んでらっしゃるの?」と聞かれて「旧約聖書です」と答えれば「あら、なんか知的」と思われることはあっても「ウソでしょ」とビンタされることはない。なぜなら尋ねた方も恐らく「旧約聖書」を読んだことがないだろうから。

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▶アブラハムの妻サラは90歳の時に長男イサクを産んだ。立派な後継者ができ、ほっとしたのも束の間、神がアブラハムの元に現れて言った。「イサクを連れてモリヤの地に向かえ。そこで私が命じる山に登り、イサクを生贄(いけにえ)として捧げよ」。アブラハム100歳にしてようやく授かった大切な長男を神は人身御供として差し出せという。神に逆らうことはできない。アブラハムは目的を告げずにイサクを連れ、指定された地に向かった。2人は黙って山を登った。アブラハムは松明と刃物を持った。イサクは知らずに後に自らを焼くこととなる焚き木を背負った。何かを感じ取ったイサクは不安げに尋ねた。「父さん、火と焚き木はあるけど、肝心の生贄はどうするの?」、アブラハムは答えた。「神がご用意くださる」。信仰心の厚いアブラハムもさすがに動揺の色を隠せなかった。「この年にしてようやく授かったこの素晴らしい息子の命を神は差し出せと言うのか」。

アブラハム
イサクを生贄にする寸前のアブラハムですが、何か ©Rembrandt

▶山頂に祭壇を作り、焚き木を並べた。そしてアブラハムはイサクを縛り上げると懐から刃物を取り出した。「イサクよ、すまぬ‼」。悟ったイサクも覚悟を決めた。と次の瞬間、天から声が響いた。「アブラハムよ。もうよい。そなたの心は分かった」。アブラハムはその場に崩れ落ちた。茂みに神が用意していた生贄用の羊が繋がれていた。「神は私が一番大切なものを犠牲にする覚悟があるかどうかを試されたのだ」。アブラハムは唸った。いやいやいや、質(たち)の悪いテッテレーの「ドッキリ」だぞ。「十戒」で「私以外の神を信じちゃダメ」と拗ねたり、悪質な「ドッキリ」を仕掛けるなどこの神様、やたら嫉妬深く、猜疑心が強い。アブラハムとイサク、どんな空気の中で山を下りたんだろ。さぞかし気まずかっただろう。創世記をさらに読み進むと「アブラハムの宗教」とも呼ばれるユダヤ教、キリスト教、イスラム教、3つの一神教共通の神が「思ってたんと全然違う」ことに気づき、もっと衝撃を受けることになる。


▶妻のサラが亡くなった。127歳だった。イサクの嫁探しが始まった。異なる血族は避けたい。アブラハムは嫁探しのため、実直な弟ナホル一族が暮らす集落に下僕を向かわせた。下僕は聡明で美しいリベカというナホルの孫娘を連れて戻った。イサクとリベカは親戚同士で夫婦となった。血は濃い方が良い。アブラハムもちゃっかり後妻をもらいイサクと競うように6人の子をもうけた後、175年の絶倫人生を終えた。「んなアホな。一体どうなってんだ、この時代の後期高齢者は?」と叫びつつ次号に続く。チャンネルはそのままだ。

参考:阿刀田高著「旧約聖書を知っていますか」他

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週刊ジャーニー No.1321(2023年12月14日)掲載

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