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■ 第73話 ■スゴイ価値観の押しつけ

▼2010年4月14日早朝。南ドイツ、バイエルン州にあるノイシュバンシュタイン城取材のためミュンヘンへと飛んだ。まさにその日、アイスランドで火山が大規模噴火を起こした。細かな火山灰が上空高く舞い上がったことで飛行機が飛べなくなり、ヨーロッパ中の空港が閉鎖された。そんな中、私と本誌女性編集者はフッセンという町に到着した。

▼ホテルにチェックインを済ませると観光局から派遣された、かなりふくよかな(言葉選び慎重)地元のガイドさんが車でやってきて、近郊の古い教会などを案内してくれた。彼女は我々が日本人と知ると、初対面相手に不適当な質問を投げかけてきた。「あなたたち、捕鯨のこと、どう思っているの?」。私は凍り付いた。相手がどういう考えを持っているか分からない状態で、おいそれと私見を述べるべきではない。言葉を濁していると「絶滅が危惧されているんだからもっと慎重に扱うべきね」と上から目線で言われた。「捕鯨はいかんがホロコーストはいいのか?」と失礼返しをしてやりたかったが、車から蹴り出されても困るので太ももをギュッとツネって堪えた。

▼翌朝、同じガイドさんがやって来て、車で城まで連れて行ってくれた。ノイシュバンシュタイン城は小さな山の上に立っている。城の麓には観光馬車がいて急峻な道を馬がせっせと観光客を運んでいる。アスファルトに蹄を立て、苦しそうに坂道を登っていく馬の姿を同情しながら見ているとガイドさんが言った。「ウィーンの観光馬車、知ってる?」。「知っている」と答えると彼女は眉間に皺を寄せながら言った。「あれは酷いわね。あんな公害だらけの街中を1日中、人を乗せて走らせるなんて虐待よ。それに比べてここの馬は毎日、澄んだ空気を吸って、こんな綺麗な風景の中を歩けるんだから、幸せだわ」。「いや、彼らが綺麗な風景って思っているかどうかも分からんし、決して幸せそうには見えない…」と言いたかったが気がちっちゃくて言えず、ビミョーな作り笑いと共に言葉を飲み込んだ。

ノイシュバンシュタイン城ですが、 何か?©Softeis

▼昼飯時。ガイドさんは我々を1軒のレストランへと案内した。彼女は言った。「私たちは1日2食なの。2食で十分。3食は食べ過ぎよ」と言い、1日3食文化を否定した。彼女がオーダーしたのは名物と言う「マカロニチーズ」だった。「アメリカ人が大好きな爆発的高カロリーのヤバイ奴だぜ」と言いたかったがこれも言えなかった。マカロニチーズが来た。どんぶり一杯てんこ盛りだった。「それ、2000キロカロリー(推定)くらいありますから。それなら1日1食で十分。そんな不健康なもん食ってるからそのような…」。言いたかったが大気圏外までぶっ飛ばされそうだったのでやめた。価値観を押しつける人は多い。私自身も反省すべき過去がある。しかしこれほど強烈に自分の考えを押しつける人に会ったことはない。風光明媚なバイエルンの田舎だけ見て育ったのだろうか。常に自分が正しく、相手は間違って映るようだ。実に危険で厄介な人物だった。

▼この話には後日談がある。この取材旅行から2年半後の2012年10月8日、ノイシュバンシュタイン城の観光馬車が突然下り坂を暴走し、道路わきの壁に激突したというニュースがあった。この事故で日本人観光客4人を含む8人が車外に放り出され重軽傷を負った。やっぱり馬は幸せじゃなかったんじゃん。

▼さて、フッセンに2泊している間にミュンヘン空港も火山灰のために閉鎖された。どうやってイギリスに戻る? 妙案が浮かばないまま次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1193(2021年6月17日)掲載

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