gudaguda_title.jpg

■ 第74話 ■大陸を脱出せよ‼

▼2010年4月14日(水)、アイスランドで火山が大噴火。火山灰が上空1万メートルの成層圏にまで達したため航空機が飛行禁止となり、ヨーロッパのほぼ全域で空港が閉鎖された。私と本誌女性編集者は運悪く、噴火したその日朝にミュンヘン入りし、2泊3日の取材を終えたものの大陸に閉じ込められた。結果的にヨーロッパはこの後、ほぼ1週間に渡って空港が閉鎖され続け、10数万人の足に影響が及んだ。我々はその中の2人となった。

▼当分フライトが再開されないであろうことはすぐに分かった。飛行機がダメならフェリーかユーロスターがある。ところがニュースでは「パリやブリュッセル駅やフェリー乗り場は人が溢れ返っているから絶対に来るな」と盛んに訴えていた。「当分の間、ドイツ飯ってこと?」。山積みされたソーセージと酸っぱいキャベツが頭に浮かんだ。「やっぱ移動しよう」と決まり、金曜の朝、警告を無視してミュンヘンから鉄道でブリュッセルに向かった。頭にはムール貝とワッフルが浮かんでいた。ソーセージよりは食べ続けられそうな気がした。本音では1ミリでもイギリスに近づきたいという帰巣本能に近いものがあったと思う。

▼15時間くらいかけ、真夜中のブリュッセル駅に到着。小さなホテルに潜り込んだ。土曜早朝、ブリュッセル駅に向かった。購入できたユーロスターの座席は4日後のファーストクラスのみ。ブリュッセルに4泊? 観るもの、何があったっけ。頭に浮かんだのは小便を垂れ流す小僧だけだった。編集者が2人も抜ければジャーニーはたちまち制作が困難になる。何としても月曜までに帰らねばならなかった。そこで一か八かの作戦を敢行することにした。「ずる」ぶっこいたと批判を受けるだろうが背に腹は替えられなかった。もう10年以上前のことなので勝手に時効と判断し、白状しちゃう。良い子は絶対真似しちゃだめだ。

ユーロスターですが、何か? ©Kabelleger / David Gubler

▼その日、私と女性編集者は急きょ、偽カップルとなった。彼女は妊娠3ヵ月。あさって月曜の午前中、絶対に外せない医者とのアポがある。なので何とかならんか大作戦だった。数百人がすし詰め状に押し寄せる駅の案内所で練習通り、係員に訴えた。ところが先方も慣れたもので「みなさん状況は一緒です」の一点張り。敗戦色濃厚だった。そこでダメ元で幼稚園のお遊戯会以来となる一世一代の大芝居を打つことにした。パートナーのお腹を指差し「これがこれなもんで。なんせ初めての子で、おまけに身体が細いので心配で心配で頭おかしくなる5秒前です」と半泣き、汗だくで必死に訴えた。すると担当者はヤバイ奴、コワイと思ったのか遠くに視線をやりながら囁いた。「あっちの小部屋に行ってみな」。奇跡の囁きだった。

▼小部屋では名簿に名前を書くよう言われた。じっと待つこと8時間。突然名前を呼ばれ、出国審査を受けるよう言われた。二十歳くらいの女性駅員に「走れ~‼」と怒鳴られ、2人でホームを大激走した。ユーロスターに乗り込むと4人用の1等個室に押し込まれた。個室にはなぜか我々2人きりだった。数万人が駅や港で立ち往生しているというのに、立ち客どころか空席を残したまま運行していた。ホッとする中、知ってはいけない大人の世界を見てしまった気がした。電車が動き始め、海底トンネルを抜けてイングランドの大地が見えた時は故郷でもないのに心底安堵した。最終的に当初の予定より4日早い土曜夕刻にイギリスに戻ることができた。世の中には確かに表と裏の世界があるようだと気づいたところで次号に続く。チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1194(2021年6月24日)掲載

他のグダグダ雑記帳を読む