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■ 第71話 ■草食系絶倫男子

▼ピーターラビットのモデルとなったアナウサギ。その愛くるしい容姿に似合わずとんでもない絶倫動物で、1匹のオスが1年後には100匹の子を持つビッグダディになることは先週号で語った。アナウサギは人の手によってブリテン島に持ち込まれた外来種だが、英国全土で野生化した。地下深く縦横無尽に穴を掘り、複雑なトンネルを巣として暮らし、草や穀物だけでなく植物の根なども貪欲に食べまくる。種の保存のため異常なまでにたくましい繁殖能力を身に着け、農作物に深刻な被害をもたらした。英国は1950年代にウイルスに感染したウサギを野に放ち、アナウサギの99%を駆除することに成功。ようやくこれを制圧した。

▼この禍の元を敢えて自らの土地に招き入れた人間がいた。トマス・オースティン。サマセットで羊牧場を営んでいた男だ。1830年頃、英政府はオーストラリアへの植民を進めていた。送り込んだ人たちの食料を賄うため、オースティンは乞われて渡豪した。1831年、豪ヴィクトリア州ウィンチェルシー近郊に3万エーカーと言う巨大な土地を得て牧場を開き、馬や羊を放牧した。オースティンはイングランドから野ウサギやクロウタドリ、ヤマウズラなどを持ち込んだ。狩猟が趣味だったオースティンだが、オーストラリアには狩猟に向いた持続可能な動物が少なかった。そのためアナウサギを送ってくれるようイングランドに依頼した。1859年のある日、雄雌あわせて24匹の若いアナウサギが届いた。オースティンは「どんどん増えてね」と彼らを野に放った。頼まれなくてもアナウサギは増えた。増えに増えまくった。入植者たちは嬉々としてアナウサギを撃った。オースティンは「数匹の導入ではほとんど害はない。みんな、祖国にいるかのような気持になるだろう。えがったえがった」と語り、目を細めた。残念ながらオースティンは間違っていた。とてつもなく。

トマス・オースティンですが、何か?

▼数年後、アナウサギが農作物を食い荒らすと問題視され始めた。オーストラリアの乾燥した大地は冬も温暖で、天敵も少なくアナウサギにとってまさにパラダイスだった。食べ物も豊富で産まれた子は皆スクスクと育ち、彼らもすぐに成長し子孫繁栄に貢献した。先に持ち込まれた野ウサギとも貪欲に交配し、野ウサギはたちまち姿を消した。恋愛にガツガツしない男性を草食系男子と言うが、全くの誤用だ。草食動物なめたらアカン。旺盛な食欲のため、絶滅する植物が続出。深刻な土壌侵食も引き起こし、土地が荒廃した。アナウサギが方々でオーストラリアの生態系を破壊し始めた。

▼遂に政府が介入。猛毒や農業用機械を使っての駆除が始まった。一方でアナウサギが他の地域にまで拡大するのを防ぐため、全長2400キロに渡ってフェンスが張り巡らされた。しかしいずれも効果は限定的だった。わずか24匹から始まったアナウサギだったが、1940年代には推定8億匹となった。オーストラリアはバニーちゃんで溢れた。1950年代、英国で成功したウイルスがオーストラリアにも導入され95%が駆除された。しかし5%のアナウサギが免疫を獲得して生き残り、再び爆発的な子孫繁栄の営みが始まった。1996年以降、新種のウイルスが投入され個体数は減少に向かったが根絶には至らず、今もオージーとアナウサギとの闘いは続いている。世界各国が動植物の検疫に厳しいのはこういった過去の苦い経験から来ているのだろう。愛くるしいピーターラビットと草食系男子を見る目が少し変わったところで次号に続いちゃう。チャンネルはそのままだぜ。

週刊ジャーニー No.1191(2021年6月3日)掲載

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