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■ 第70話 ■絶倫、性豪アナウサギ

▼近くにあるだけで不動産価値が下がると、英米で忌み嫌われているジャパニーズ・ノットウィードJapanese knotweed(日本名イタドリ)。「世界の侵略的外来種ワースト100」に指定されていると前号で書いた。そのイタドリから話は突然ウサギにぶっ飛ぶ。なぜかって? あとで分かる。

▼「ピーターラビット」。湖水地方で暮らしていたベアトリクス・ポターがお友だちの息子に宛てた絵手紙が原型と言われている。このピーターラビット、モデルとなっているのはアナウサギと呼ばれるウサギで、元々はイベリア半島辺りに棲息していた。このアナウサギをブリテン島に持ち込んだのは11世紀にフランスから攻めて来たノルマン人か、12世紀に遠征から戻ってきた十字軍ではないかと言われている。アナウサギは食用以外にも毛皮の素材として珍重された。脂肪が少ないためローストに適さず、煮るか焼くかして食べた。

▼イノシシなどと比べて逆襲される危険性が少ないため、貴族のご婦人たちの狩猟対象動物としてアナウサギは大変な人気を博した。エリザベス1世もウサギ狩りを好んだんだとか。毛皮にも食肉にもなる上に狩りという娯楽にも使えるってんで貴族たちは積極的にアナウサギを飼育した。18世紀半ばごろまでアナウサギの繁殖はある程度管理されていた。ところが小麦と羊毛の価格が高騰したことでウサギの飼育地が小麦畑や羊毛の放牧地にコンバートされた。不要となったアナウサギが大量に見捨てられ、野生化が始まった。人間の都合によって毛皮にされたり食われたり、狩りで追い回された末、邪魔になって棄てられた。そしてアナウサギの逆襲が始まる。

可愛い顔して性豪ですが、何か?©JJ Harrison

▼アナウサギは驚くほど精力絶倫だ。宍戸ジョーや山城新伍など、昭和の銀幕スターたちにも性豪が多かったらしいが、アナウサギの足元にも及ばない。アナウサギのオスを仮にジョニーと呼ぶ。ジョニーにはベッキーという妻がいる。ジョニーとベッキーは愛し合い、やがて子をもうける。一度に平均5人の子を産む。ジョニーとベッキーは年に5回ほど愛し合い、そのたびに5人ほど子を産む。従って結婚から1年後、ジョニーとベッキー夫妻の間には25人の子がいる。スゴイ。しかしジョニーのスゴさはこれだけに止どまらない。ジョニーにはベッキー以外にも少なくとも3人の妻がいる。他の妻たちもベッキー同様、年に25人の子を産む。気が付けばジョニーは1年で100人を超す大家族のビッグダディーとなっている。書いているだけで鼻血出る。アナウサギは地中深く縦横無尽に穴を掘って身を守りながら生活している。ジョニーはこの複数の大家族の間を行き来して、ファミリーと縄張りを守りながら生きている。そして恐ろしいことにジョニーはブリテン島の至る所にいた。

▼アナウサギにも天敵がいる。最大の敵はオコジョ(イタチの仲間)」だ。オコジョがどれだけアナウサギを捕食しても次から次へと子が増えるので、アナウサギの爆発的増殖は止まらない。19世紀後半になると農作物への被害が深刻化した。1953年、英政府はウサギだけが感染する「兎粘液腫ウイルス」をばら撒いてこれを99%駆除した。自分の都合で増やしておいて増えすぎると殺戮する。人間は身勝手だ。しかしウイルスが弱毒化した上、1%が免疫を獲得して生き延び、今も個体数を着実に増やしている。そして性豪アナウサギは爆発的繁殖力ゆえイタドリ同様「世界の侵略的外来種ワースト100」に指定された。ちゃんと繋がったところで絶倫アナウサギのお話、次号に続いちゃう。

週刊ジャーニー No.1190(2021年5月27日)掲載

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