ホンネで語る!
現地校の教師生活
後編
日英の小学校、どう違う?
英国の現地校での教師生活について、実際に教鞭をとられている現役教師の方々にお集まりいただき、苦労や喜び、教育制度の不満などを熱く語っていただきました(全2回シリーズ)。参加者のプロフィール
(40代)/在英20年以上。教職歴19年。ロンドン北部の小学校勤務。
(30代)/在英約10年。教職歴10年。ロンドン北部の小学校勤務。
(20代)/在英20年以上。教職歴2年。ロンドン郊外の小学校勤務。家庭の問題と社会問題
―日本とイギリスの教育の違いを感じることはありますか?

- イギリスの教育の良いところは、個々に合った教育を与える「インディビデュアル・ニーズ」が定着している点だと思います。30人クラスなら、できる子どもたちは持ち上げて、できない子どもたちは否定するのではなく、その子たちができることを考える。個人のニーズにあわせて教育するのがイギリス方式なんです。でも最近、先生たちに余裕がなくなって、その良さがなくなりかけている気がしますね。

- そうですね。授業の準備は大変だし、教員不足なので、みんな自分の仕事でいっぱいいっぱいな印象です。他の先生に何かお願い事をされても、「ごめん、そんな時間ない」みたいな。実際に、私も忙しくてそういう気分になっちゃうんですよ。

- 子どもたちが教室に入ってきた瞬間から全部の授業が終わるまで、休憩も全然ないですし。子どもたちの後を走ってついてまわって、体力もすごく使うし、気を抜く暇がない状態です。

- ただ私の勤める学校は、教育面ではまだイギリスらしさを保ってますね。たとえば英語を話せない子、読めない子も結構いるんですよ。そうすると全員に同じ教育はできないので、個々に合ったやり方を考えて実践しています。でも通常の授業に加えて、それぞれに合わせた授業もしなきゃいけないから、時間がかかるんですよね…。子どもたちの心の悩みを聞いたり、相談にのったりする時間がなかなかとれなくて。

- イギリスは小学校に入学する年齢が早いので(下頁参照)、日本でいえば幼稚園の年中さんくらいの子どもたちが、じっと座って勉強しなくちゃいけない。イギリスも、どんどん「勉強第一」の方向に進んでいる気がします。精神の成長を促す「イギリス教育の美」が失われつつあって、先が不安ですね。10年後には、うつ症状とかに悩まされる子どもが増えるんじゃないかって。
―実際にイギリスの子どもについては、どのような印象ですか?

- 各家庭での問題とか、やっぱり日本に比べてイギリスは大変ですね。さまざまな事情で、朝ごはんが食べられない子がいたり。

- 移民や難民のご家庭もあるので、家族全員が英語を話せなかったり、戦火を逃れてきてイギリスへの思いがすごく強かったり…。そういった家庭の問題は社会問題にも繋がっていて、子どもたち同士は抱えている問題をすぐに気がついちゃうんです。とても敏感なので、「ちゃんと食事してるかな?」「元気に過ごせてるかな?」「悩みはないかな?」とか、勉強を教えるだけでなくて、色々なことに気を配って子どもたちをケアする必要があります。

- イギリスにはいわゆる「階級差」もあるし、ヨーロッパ各地の難民キャンプを転々としている子とか、日本では考えられないような経験をしている子どもは少なくないですね。

- 問題といえば給料面ですね。「これだけ頑張って、この給料!?」って。実はロンドン市内と郊外では、給与額が全然違うんですよ。インナーロンドン(Inner London)、アウターロンドン(Outer London)、郊外(Fringe)、その他(Others)という順番で、中心部から離れるほど給料も下がる。だから数年すると、インナーロンドンの学校やインターナショナル・スクールに転職する先生もいます。

「勉強第一」になりつつあるイギリスの教育制度に不安を抱くAさん。
自腹で朝ごはん
―教職に就いて、問題点や不満に思うことなどはありますか?

- あとは、学校が教材費にあてる資金の少なさ! 学校で使う鉛筆や消しゴム、糊も満足に買えないほどで…。だけど文房具類がないと授業ができないので、結局先生が自腹で購入するんです。私もよくまとめ買いをするんですけど、「何で私のお金から出さないといけないの?」 って考えてしまって。これが教職で一番不満な点かな。

- そうそう!しかも一番安いものを買うから、糊もすぐ剥がれるし、鉛筆の芯もポキポキ折れるし、すごくイライラしちゃう。でも高いものは買えないし…。その不満をカバーするのが、子どもたちや教育に対する「情熱」なんですよね。私は今年に入ってから、朝ごはんを食べられない子のために、毎日、朝ごはんとスナックを買ってるんです。

- えっ、朝ごはん? 毎日!?

- そうです。さっきも少し話しましたが、私のクラスで2~3人、朝ごはんを食べていない子がいて。支援制度もあるんですけど、朝ごはんどころか、もっと食べることができない苦しい家庭の子も学校にいるので、そうした子どもたちが優先されるんですよ。なので、私が自腹で買ってます。

- それは大変ですね…。だから、イギリスの学校はチャリティが盛んなんですよね。ご飯を食べられない子どものために、勉強した後に食事をして家に帰るキャンプがハーフターム中にあったり。

「朝ごはんを食べられない子のために、毎日、朝ごはんとスナックを買っています」と話すBさん。
毎日届くメール
―保護者との関わり方はどうですか?

- 私の学校はオープンドア・ポリシーを掲げていて、子どもと保護者が一緒に「朝学習」をする時間があるんです。だから保護者といつも会ってるし、話をする時間もあるので、保護者と先生の関係はわりと密な方だと思います。個人面談も年に2~3回あるから、いわゆる親による「怒鳴り込み」のような出来事もないですね。

- 私の学校の場合は、玄関前で保護者と別れて子どもたちは一人で教室にくるので、朝は保護者と顔を合わさないですね。でも放課後に子どもを迎えに来たときに会うので、そこで話したり、色々な質問を受けたり、「昨日の夜、こんなことがあったんですけど…」と相談を受けたりします。こちらの人は人前で怒ったり、怒鳴ったりすることをあまり気にしないから、「モンスターペアレンツ」のような結構すごい保護者も中にはいますね。

- 私も朝は保護者とお会いしませんけど、放課後は教室のドアの前に立って見送るので、そのときに軽く話をします。でも、うちの学校はウェブサイトで先生のメールアドレスを公開しているんですよ。

- えぇー! それは大変!

- もちろん個人のものではなくて、学校から支給されているアドレスですけど。ほぼ毎日、保護者の方から何かしらメールで連絡がきますね。時々、なが~い文章が届いたり…(苦笑)

- キツイですね、それ…。

- 私は今の時期(7月)が一番好きなんです。9月に学年が始まったときは英語が全然読めなかったのに、1年経って今はこんなに読めるね、頑張ったね! って、子どもたちの進歩状況が一番わかる時期なんですよ。あと、日本と違って先生と生徒の関係が自由なところも好き。先生のことをバカにした発言をされても、それを笑い飛ばして、逆に冗談を言い返して一緒に笑いあえる関係性を築けるんです。それがとても楽しいですね。
子どもの成長と信頼関係
―教師としてのやりがいは、どんな点に感じますか?

- 私も、子どもたちが何かを達成できた姿を見ると嬉しくなります。一人でトイレに行けるようになったときとか。

- 私のクラスに、課題を出すとすぐに「できない!」って怒る子がいたんです。だから「できないじゃなくて、やってみよう。『やってみる』と言うだけでもいいから」と一年間洗脳しました(笑)。そうしたら、この間、「うっ」って顔しながらも「…やってみる」と言ったの! すっごく嬉しかった!「やってみる」と言うだけでも、ポジティブな気持ちになるんですよね。他の先生にも、その子の態度が変わった、良くなった、と言われて「ヨシ!」って(笑)。勉強以外の子どもの成長を感じたときは、先生をやっていて良かったなって思います。

- 誰にも話せないような家庭での悩み事を、子どもから相談してもらえたり、信頼関係を築けたと感じたりしたときは本当に嬉しい。

- うんうん、わかる!

- 色々と不満はあるし大変だけど、結局、子どもが可愛いんですよね(笑)


- そう、可愛い!

「学校のウェブサイトでメールアドレスが公開されているので、保護者から毎日メールが届く」と話すCさん。
週刊ジャーニー No.1054(2018年9月27日)掲載
「現地校の教師生活」前・後編は、今回で終了となります。今後も様々なテーマで座談会をお届けしていきますので、ご期待下さい!
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