JAPAN MATSURI
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◆◆◆《第933回》◆◆◆
AfDの躍進

世界的に注目されたドイツのザクセン・アンハルト州議会の選挙は九月六日に行なわれ、極右のAfD(ドイツのための選択肢)が勝利を収めた。全議席の過半数には届かなかったが、四三・八%の得票率を確保し、第二位のCDU(キリスト教民主同盟)の一七・二%を大きく引き離した。議席数で見ると、AfDは全体の八三議席のうち三九議席を獲得した。過半数まであと三議席だった。
ドイツの州議会でAfDが第一党になったのはこれが初めてではない。二年前にもチューリンゲン州議会選挙で三二・八%の得票率で第一党になっている。この時は連立相手が見つからず、州政府の首相を出すには至らなかった。
しかし、今回は事情が異なる。前述のようにAfDの議席数は過半数より三議席少ないだけである。CDU、SPD、緑の党、左派党などの政党がAfDと組むことはあり得えないが、一つだけ連立の可能性がある政党が存在する。それはBSW(ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟)という政党である。同党は今回の選挙で五・三%の得票率で五議席を獲得した。三九議席のAfDと合わせれば過半数に達する。
BSWは左翼のポピュリズム政党である。二〇二四年に旧東ドイツ出身で連邦議会議員のザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏らが設立した。BSWは資本主義の過度な浸透に反対する一方、ウクライナ支援には批判的な立場を取っている。CDUなど主要政党がAfDへの協力を断る中、BSWは協力を排除しない意向を表明している。左右両派のポピュリズム政党であるAfDとBSWが連立すれば、旧ナチス崩壊以後初めて民族主義的な政党がドイツの州政府の首相を出すことになる。これはドイツの一地方の枠を超え、欧州の政治の流れを変える重大事件である。
AfDの躍進に対して、すでにアメリカのトランプ大統領と富豪のイーロン・マスク氏は「よくやった、見事だ」と賛辞を送っている。またロシアの実業家、キリル・ドミトリエル氏も「AfDの勝利は歴史的なことだ」と評価した。AfDはかねてよりロシアと友好関係にある。昨年十一月、AfDに所属する二人の連邦議会議員がロシアを訪問し、ソチで開かれた国際会議に参加した。AfDはEUのウクライナ支援に反対している。この点は前述のBSWと同じだ。AfDのクエバラ共同代表は、「メルツ首相は勝ち目のないウクライナに税金を無駄に投入している。ウクライナはロシアに負けるに決まっている」と公言している。こうした主張がドイツ全土に広まれば、ウクライナを支援しているメルツ政権がますます苦境に立つとともに、EUの結束が揺らぐ。それはロシアの望むところである。AfDの躍進は国際的な問題なのである。

今回、AfDが第一党になったザクセン・アンハルト州は旧東ドイツ領で、いわゆる東部五州の一つである。二年前にAfDが第一党になったチューリンゲン州もまた旧東ドイツである。
ドイツでは今なお東西間に大きな経済格差がある。旧東ドイツの一人あたりGDPは旧西ドイツの八割に過ぎない。一ヵ月あたりの可処分所得は旧東ドイツ側が約二千ユーロであるのに対し、旧西ドイツ領は二千二百ユーロだ。失業率も東側の方が高い。
旧東ドイツである東部五州には資本主義になじめず、共産主義の時代をなつかしむ住民がいる。そうした郷愁につけ入る形で勢力を伸ばして来たAfDは現在、東部五州以外の地域でも支持率を高めている。
AfDの勝利を受けて、ベルリンなど全国三十五の都市で極右政党の台頭に抗議するデモが起きた。そうした状況の中、 九月二十日にはベルリン州とメクレンブルク・フォアポンメルン州の議会選挙が行なわれた。本稿を書いている時点では出口調査の結果しか分からないが、それによるとどちらの州でもメルツ首相が率いるCDUは敗北した。とくに東部五州の一つであるメクレンブルク・フォアポンメルン州でCDUは一議席も獲得出来なかったようだ。敗北が続くメルツ首相に対する辞任圧力は一層強くなるだろう。
メクレンブルク・フォアポンメルン州ではAfDが第一党になると見込まれている。ただし連立相手が見つかる可能性はほとんどなく、州政府を担うことは出来ない。しかしながら極右のAfDの躍進は著しい。それがドイツの政治をどのように変えるのか。そして欧州全体にどう影響するのか。当面はザクセン・アンハルト州におけるAfDとBSWの連立協議が注目される。

週刊ジャーニー No.1463(2026年9月24日)掲載

くろだいぬひこ
在英三十年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。
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