徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、聖母マリア様を掲げ
街を行進いたしますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、いかがお過ごしでしょうか? わたくしは英語学校の友人たちと一緒に、ポルトガル旅行を満喫してまいりました。英国は肌寒くなってきておりますが、ポルトガルは夏真っ盛り! ポルトとリスボンに2泊ずつ滞在したのですけれど、英国の気候に慣れすぎてしまったのか、あまりにも強い日差しに倒れそうになってしまいました…。今月末のバンクホリデーの3連休には、コーンウォールに行く計画を立てております。海岸線で久々に乗馬を楽しむ予定でおりますので、また後日感想をお伝えいたしますね。

さて今回も、新たに知りました英国の習慣についてご報告したく思います。

昨年の今頃でしょうか。英語学校の帰宅時に、街で不思議な行列と出会いました。どちらかの教会の聖職者や信者と思われる方々が、聖母マリア様の像を掲げ、まるで歌うように祈りを唱えながらゆっくりと行進しているのです! 行列の先頭を歩いている男性は刺繍が施された豪華な衣装を身にまとっており、手には振り香炉を携えています。香炉から立ちのぼる煙が辺り一帯に漂い、鈴の音も涼やかに響き渡って、見ておりますだけで大変厳かな気持ちになりました。

帰宅した後、エドワーズ夫人にこの行列について尋ねますと、「それはカトリック系教会の聖母被昇天祭の行進ですよ」と教えてくださいました。英国国教を主教とする英国でこうした行進を目にするのは珍しいそうですが、カトリック教国では盛大にお祝いする宗教行事のひとつとのこと。一体どのような行事なのか興味がわきましたので、調べてみることにいたしました。

ウェストミンスター地区にある教会「All Saints Margaret Street」に問い合わせてみますと、副牧師の助手をなさっている方が丁寧に対応してくださいました。

ヘンリー8世の時代、イングランドは国王の離婚問題を発端にローマ教皇を頂点とするカトリックと袂を分かち、独自の英国国教を創設しました。1850年代に建造された「All Saints」教会は、その英国国教会の系統である英国聖公会(アングリカン・チャーチ)を教派とするそうです。プロテスタントとカトリックの中間に位置づけられますが、重んじる教義や典礼などはカトリックにかなり近いのだとか。カトリック教徒にとって、マリア様が亡くなり、その肉体と霊魂が天に召されたとされる「聖母被昇天」の日は、大変重要な祝祭日とのこと。イタリアやフランスなどのカトリック教国では、祝日に定められているそうです! 各教会で特別なミサが行われ、教会の鐘が鳴り響く中、聖母像や十字架を天へと掲げながら行進するとか…。カトリック教国ではない英国ではあまり見る機会はありませんが、それでもわずかに存在するカトリック系教会や「All Saints Margaret Street」のようにカトリックの典礼を重視する教会は、聖母被昇天の日を祝っているとおっしゃっていました。

聖母被昇天の祝祭は、毎年8月15日に行われます。今年も行進を見かけることができるのでしょうか。楽しみにしております次第です。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年8月5日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年10ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

週刊ジャーニー No.996(2017年8月10日)掲載

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