徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、ロンドンには超高層ビルがありませんの?


徳川るり子

愛するお父様へ

今週末、英国はいよいよ冬時間に切り替わります。時計の針を1時間戻すため、1時間分「得」をするのは大変喜ばしいのですが、長くてどんよりと暗い冬がまた始まるのかと思いますと、溜め息を禁じえません。望んでこの国に住まわせていただいていますのに、勝手なことなのですけれど…。

さて、今日は常々疑問に思っておりました事柄について調べましたので、それをご報告したく筆をとりました。

以前、ロンドンへ遊びに来た友人に街を案内していたときのことです。彼女がふと感心したように「ロンドンはどこを歩いても『ロンドン』ですのね」とつぶやきました。よく意味が理解できず詳しく尋ねたところ、彼女いわく、ヨーロッパの都市は「旧市街」と「新市街」に分かれているのが一般的で、旅行ガイドブックやテレビなどで目にするのは旧市街の風景がほとんど。実際に訪れてみると、旧市街エリアは狭く、少し歩けば近代的な建物が並ぶ新市街に出てしまい、ガッカリすることが多いのだそうです。その点、ロンドンは他の国に比べて味気ない超高層ビルが少なく、「どこに赴いてもイメージしていたロンドンそのまま」で、とても嬉しく思ったのだとか。

確かにロンドンは大都市であるにもかかわらず、高い建物が少ない気がいたします。ロンドン・ブリッジ周辺の再開発の一環として2013年に誕生した「ザ・シャード」の高さも309・6メートル。東京スカイツリー(634メートル)の半分ほどしかございません。景観を保つための規制があるのでしょうか? 気になりましたので、調べてみることにいたしました。

ザ・シャードやロンドン市庁舎などが建つ、サザーク地区のカウンシルに問い合わせましたところ、広報担当の男性が親切に対応してくださいました。

彼のお話によりますと、1938年に「セント・ポール大聖堂の姿が隠れるような高い建物を建造してはならない」という景観規制が施行されたとのこと。ハムステッド・ヒースやプリムローズ・ヒル、グリニッジ展望台などロンドン各所の8つのポイントから、大聖堂のドームが見えるように、建物の高さに制限が設けられたのです。この8ヵ所と大聖堂を結ぶラインを「ビュー・コリドー」(「眺めの廊下」という意味だそうです)と呼ぶのだとか。何やらおしゃれな名称ですね!

セント・ポール大聖堂は、古代ローマ時代に築かれた月の女神ダイアナの神殿跡に建造された、長い歴史と伝統のある建物。1666年に発生したロンドン大火で一度焼失していますが、1710年の再建以降、この大聖堂はロンドン市民の心の拠り所であり、復興のシンボルなのだとか。

では一体なぜ、ザ・シャードのような建物や高層フラットなどが最近建設されているのでしょう? 広報の男性によりますと、「法には必ず抜け道があるのです」とのこと。8本のビュー・コリドーが通らない「死角」のエリアに、新たなビルが建てられているのだそうです! 今後20年以内に建設が予定されている高層ビルの数は430。ロンドンにも、いずれ新市街が誕生するのかもしれません。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年10月14日 るり子



とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英3年1ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

週刊ジャーニー No.1007(2017年10月26日)掲載

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