
何ゆえ、「バーボン・ビスケット」と命名されましたの?

愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
昨日は、来週日本に帰国してしまう英語学校の友人と一緒に、ロンドンにある5つ星ホテルでアフタヌーン・ティーを楽しんでまいりました。ピアノの生演奏を聴きながらいただく美味しい紅茶とスイーツ、そして細やかなサービスに、友人も大変満足したようでした。また日本で会えるとは思うものの、深まりゆく秋の気配と相まって寂しさが増します…。
さて本日も気合を入れて、英国について新たに知りました事柄をご紹介いたしますね。
エドワーズ夫人はミルクをたっぷりと注いだ紅茶に、ビスケットを浸して召し上がります。初めてこの動作を目にした折には、ひどく驚いたものですが、16世紀の英海軍における船上での習慣(当時のビスケットは硬く、水分に浸してやわらかくしないと食べられなかったそうです)に由来することを知ってからは、英国の伝統的な習慣のひとつと好ましく思っております。 新聞でも、しばしば「紅茶に浸して食べたいビスケット・ランキング」が発表されておりますけれど、上位にランクインするビスケットは大抵同じで、マクビティ社の「リッチ・ティー」、あるいは「バーボン・ビスケット」等々。エドワーズ夫人は、ココア味のビスケットの間にチョコレートクリームを挟んだ「バーボン・ビスケット」がとくにお好きで、必ずキッチンの戸棚に忍ばせていらっしゃるんですよ!
さて、英国人に人気のあるバーボン・ビスケット、実は名前の由来がずっと気になっておりました。バーボンと言えばウィスキーが浮かびますが、何か関係があるのでしょうか? 詳しく調べてみることにいたしました。
現エリザベス女王陛下のウェディング・ケーキを手がけた老舗菓子メーカー「ピーク・フリーン社」に問い合わせましたところ、広報の女性が丁寧に対応してくださいました。彼女の話によりますと、バーボン・ビスケット(バーボン・クリームと呼ぶメーカーもあり)は様々な菓子メーカーから発売されていますが、同社のものが元祖とのこと。1910年に考案され、最初は女性の名前を冠した「クレオラ(Creola)」の名で世に出したそうです。しかし思ったように売上げが伸びず、改名することに。そこで注目したのが、16~18世紀に繁栄したフランス王家「ブルボン(Bourbon)」でした。
ヴェルサイユ宮殿が建設され、マリー・アントワネットが登場したブルボン王朝時代の華やかさにあやかろうと(?)、同社は「ブルボン」を新たなビスケット名として採用。それが英語で発音すると「バーボン」になるとおっしゃっていました。
ちなみに、米国生まれのバーボン・ウィスキーの「バーボン」も、ブルボン家にちなんでいるのだとか。英国からの独立戦争時に、フランスが米国側に味方したことを感謝し、ケンタッキー州にある町のひとつを「バーボン」と名付けたそうです。そして、その地方で生産されるウィスキーが「バーボン・ウィスキー」と呼ばれるようになったとのことでした。
今回は、何やらフランスの底力を見せつけられた気分です…。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成29年10月1日 るり子

週刊ジャーニー No.1004(2017年10月5日)掲載