何ゆえ、クリスマス・スイーツにはスパイスが入っておりますの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
今朝は子どもたちの大きな歓声で目が覚め、不思議に思って窓のカーテンを開けますと、雪景色が一面に広がっておりました。雪が降り続く中、親子や友達同士で雪だるまをつくったり、雪玉を投げあったりと走りまわっている姿はとても微笑ましく、わたくしも幼少時を思い出して参加したくなりました。
さて本日は、残り2週間に迫った英国のクリスマスに関する事柄について、ご報告させていただきますね。
先日、隣家にお住まいになっている初老のご夫婦から、早めのクリスマス・プレゼントを頂きました。贈り物の中身は、期間限定販売のクリスマスティー。素敵な紅茶缶に入っており、大変嬉しかったのですが、材料をよく確認してみますと、様々なドライフルーツのほかに、シナモン、ナツメグ、ジンジャーといったスパイス類の名前が…。エドワーズ夫人いわく、「クリスマスティーやスイーツにはドライフルーツとスパイスがつきものですよ」とのこと。確かに、クリスマス・プディングやミンスパイ、ジンジャーブレッドなど「クリスマスの定番」とされるスイーツには、スパイスがたっぷり含まれております。
お父様はご存知のことと思いますが、わたくしはスパイス類が苦手です。生クリームをふんだんに使ったクリスマス・ケーキやブッシュ・ド・ノエルを楽しんできたわたくしにとって、英国のクリスマス・スイーツは少々受け入れ難いものがございます。普段はあれほど甘いものを好む英国人が、一体なぜクリスマス・シーズンは「甘くない」スイーツを召し上がるのでしょう? 調べてみることにいたしました。
資料をあたりましたところ、クリスマスの定番スイーツの起源は、キリスト教文化に由来するとのこと。
たとえば、クリスマス・プディングの材料は13種類(キリスト+12人の使徒の数)、ミンスパイはキリストが眠る「揺りかご」をモチーフにしており、上に飾られる星型のパイは「キリストの象徴」なのだとか。そして、アルコールをたっぷりと含んだクリスマス・プディングはクリスマスの1ヵ月前までに完成させて当日まで熟成させ、ミンスパイはクリスマス・イブまでにつくり、クリスマスから12夜にかけて1日1個ずつ食べるのが伝統なのだそうです。できるだけ長く保存可能なものでないと困りますから、ドライフルーツやスパイス類を多用するようになったとのことでした。
その中でもよく使われるスパイスが、シナモン、クローブ、ナツメグの3品。これらは、キリスト誕生の際にお祝いに駆けつけた「東方の三博士」たちがキリストに贈った乳香、没薬、黄金を象徴するのだそうです。
クリスマスとスパイスは、英国人にとって切り離せないものであることが分かりました。今年は、クリスマスティーも美味しく(?)頂けそうな気がしてまいりました。
それでは今日はこのへんで。わたくしの3年にわたる英国滞在も、まもなく終わりを迎えようとしております。おそらく次の便りが最後になることでしょう。風邪など召されないよう、お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成29年12月10日 るり子
週刊ジャーニー No.1014(2017年12月14日)掲載