徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、2階建てバスの上階に立ってはいけませんの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

先日、ナショナル・ギャラリーで開催中の展覧会へ行こうと、2階建てバスに乗車したときのことでございます。

久々に天気のよい日でしたので、わたくしは2階の一番前の席に座り、のんびりと景色を楽しんでおりました。ところが、あるバス停でバスが止まったまま、なかなか発車いたしません。不思議に思っておりましたところ、「No standing on the upper deck or stairs please.」という車内アナウンスが何度も流れるではありませんか! 車内を見回しますと、いつの間にか2階は満席になっており、友人同士と思われる2~3人の女性たちが通路に立っていました。

アナウンスは彼女たちに向けて流されていると思うのですけれど、おしゃべりに夢中で、どうやら気がついていない模様。わたくしは勇気を出して、「バスの上階で立ってはいけませんよ。アナウンスをお聞きになって」と注意を促しました。すると、「なぜ立ってはいけないの? 下階は満員でスペースがないのに…」と不満そうな表情。「揺れますし危ないですから」とお伝えしたものの、上手く説得することができませんでした。

一体なぜ、2階建てバスの上階で立ってはいけないのでしょう? 安全のためということは理解できるのですが、ほかにも何か理由があるのでしょうか。ロンドン交通局に問い合わせてみることにいたしました。

広報担当のジョンさんによりますと、英国内で2階建てバスの上階に立つことは「法律に反します」とのこと。安全性を保つため、法律で禁止されているのだそうです。現在の2階建てバスの高さは平均約4メートル、幅約2・5メートル、全長約12メートル。昔のバスに比べてサイズが大きくなっているそうで、最新のバスは全長13メートルもあるのだとか。平均身長が昔よりも高くなっている英国人にあわせて、バスの天井も少しずつ高く変えてきたため、以前よりもバランスが崩れやすくなっているとのこと!

バスの重心は、常に車体の中央付近、そしてできるだけ低い位置にあるのがベストです。乗客がいる場所によってバスの重心が変わるので、下階の人が多ければ重心は低く保たれますが、下階よりも上階の乗客数が極端に多いとバスはバランスを失いやすくなってしまいます。直線走行をしていれば問題ありませんが、右折や左折する際に転倒の危険性がぐんと高まるのだそうです。そのため、2階建てバスの上階では、通路に立つことはもちろん、必ず座席に「座る」ことが交通法で定められているとおっしゃっていました。

時折、びっくりするほど走行中にバスが大きく揺れることがございますが、道路の状態が悪いだけではなく、「重心」が関係していたのですね。これからは、乗客がいる位置にも配慮して座ろうと思ってしまった次第です(そう簡単に転倒事故が起こることはないと思いますけれど…)。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年11月19日 るり子



とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の27歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英3年2ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

週刊ジャーニー No.1011(2017年11月23日)掲載