徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、ロンドンのクリスマス・イルミネーションは毎年同じものですの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

ロンドンでは様々なクリスマス・デコレーションが飾られはじめ、街中はクリスマス・ムード一色になりつつあります。そうした飾りつけの中でも、一番大規模で華やかなものが「クリスマス・ライト」と呼ばれるイルミネーションです。本日は、このクリスマス・イルミネーションについてご報告させていただきますね。

ロンドンでクリスマス・イルミネーションを楽しめる場所といえば、真っ先に思い浮かべるのはオックスフォード・ストリートとリージェント・ストリートでしょう。毎年11月になると、通りの両脇にたちならんだ建物を結ぶ「橋」のようにイルミネーションが設置され、ライトアップされた歴史的な建物との相乗効果で煌びやかに見えます。このイルミネーションの登場を毎年待ちわびているのですけれど、大変残念なことに、わたくしがこちらに参りましてから飾りがほとんど変わっていないように思うのです…。

とくに、オックスフォード・ストリートの「降雪」をイメージしたようなイルミネーションは、ここ5年間同じものなのだとか! 以前は毎年変わっていたそうなのですが、一体なぜこのような「手抜き」が行われているのでしょうか? オックスフォード・ストリートとリージェント・ストリートそれぞれに、加盟店によるアソシエーション(組合のようなものです)があると聞きましたので、両方に問い合わせてみることにいたしました。

まず、イルミネーションの歴史はリージェント・ストリートの方が古く、1954年から始まったとのこと。もともとは、各アソシエーションの加盟店がお金を出しあってイルミネーションの費用を捻出し、自由にデザイン等を決めていたそうです。ところが、1990年代に入ると英国全土が不況に襲われ、費用がまかなえなくなってしまいました。そこで各アソシエーションは選択を迫られたのです! イルミネーションを諦めるか、スポンサーを探すか…。彼らが選んだのは後者でした。

それ以降、デザインは両方の通りを統括するウェストミンスター・シティ・カンウンシルが、最終的に是非の判断を下しているそうで、各アソシエーションは一切携わっていないとのこと。スポンサーにとりましては、投資した金額(50万ポンド以上になるとか…)に見合う見返りを求めるのは当然です。そのため、出資企業がデザイン性を重視せず、自社の商品やロゴを大々的に宣伝するようなイルミネーションを提案したり、前年と同じものを使いまわしたりしても、仕方がないのだとか。

また、年々スポンサー探しは難しくなっており、オックスフォード・ストリートに今飾られているような「ニュートラル」な冬のイメージのイルミネーションをメインに据え、一部だけスポンサー企業出資によるデコレーションを飾る方が、数社共同での投資が可能になるので「スポンサー受け」がいいのだそうです。

夢のような世界へと連れて行ってくれるクリスマス・イルミネーションですが、現実は理想論だけでは成り立たないのかもしれませんね。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年11月4日 るり子



とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英3年1ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

週刊ジャーニー No.1009(2017年11月9日)掲載

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