徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、ロンドンには常設の遊園地がありませんの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

英国では、夏時間が終わると同時に急激に冷え込みはじめ、いよいよ本格的に冬がやってきたことを感じております。サウス・ケンジントンにある自然史博物館にもアイスリンクが登場し、ついに今季のスケートが解禁となりました。一昨年はサマセットハウス、昨年は自然史博物館でスケートを楽しみましたので、今年はハイドパークに設営される移動式遊園地「ウィンター・ワンダーランド」のアイスリンクで滑ってみたいと計画しております。

ところで、このウィンター・ワンダーランド、昨年も英語学校のクラスメイトたちと訪れたのですが、6週間だけの「仮設」とは思えないほど大規模で本格的な遊園地なのです! 巨大観覧車やジェットコースター、メリーゴーランド、射的ゲームからお化け屋敷まで、大人も子どもも楽しめるアトラクションで溢れています。ほかにも、アイスリンク、サーカスやアイススケート・ショーなどの仮設劇場やクリスマス・マーケットもあります。日が落ちると色鮮やかにライトアップされ、目に眩しいほどでした。

それにしましても、英国では夏季にも海辺や大きな公園などに子ども用の移動式遊園地が期間限定で登場いたしますが、一体なぜ常設の遊園地をつくらないのでしょう? 日本には全国各地に大小の遊園地がありますけれど、ロンドンに遊園地があるという話を耳にしたことはございません。気になりましたので、調べてみることにいたしました。

ウィンター・ワンダーランドの広報に問い合わせましたところ、興味深いお話をうかがうことができました。

移動式遊園地の起源は、18世紀にさかのぼるとのこと。当初は、子どもたちが手動で動かす木製の小さな乗り物しかなかったのだとか。夏限定で子どもたちが遊べる場所として、公園などに遊び場がつくられたそうです(当時の英国の冬は寒く、テムズ河が凍ってアイススケートが楽しめるほどだったそうですので、遊園地などは必要なかったのでしょう)。

19世紀になると、檻に入った珍しい野性の動物を披露したり、有名人の蝋人形が飾られたりするなど、遊園地はどんどん発展していきました。ちなみに大人も楽しめるようにと、ボクシングやレスリングといったスポーツ、演劇も鑑賞できたようです。やがて始まった産業革命によって、蒸気機関を使用したメリーゴーランドが誕生、スピードの出る乗り物も増えていきました。

こうした夏季にのみ登場する遊園地は、同じ場所に留まってオープンし続けるよりも、各地をまわった方が入場者数を稼げます。そのため、遊園地を所有するオーナーたちは、期間を設けて国中を巡ったのだとおっしゃっていました。これが「移動式遊園地」の始まりなのだそうです。

英国は、この伝統を守っているそうで、冬季限定のウィンター・ワンダーランドがオープンしたのも、わずか11年前。かなり画期的な企画だったため、当時は賛否両論だったとのことでした。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年10月29日 るり子



とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英3年1ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

 

週刊ジャーニー No.1008(2017年11月2日)掲載

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