何ゆえ、地下鉄のドアの「開」ボタンは使われなくなりましたの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
先日、エドワーズ夫人と一緒にスーパーマーケットへ買い物にまいりましたところ、大きなカボチャが積み上げられているのを目にし、ハロウィーンが近づいていることを実感いたしました。近頃は週末の夜になりますと、ガイ・フォークス・ナイトにちなんで打ち上げ花火を楽しむ一家の歓声も聞こえてまいります。お父様はいかがお過ごしでしょうか?
さて今回も、ロンドン生活を送る中で疑問に感じておりました事柄について、ご報告させていただきます。
ロンドンで地下鉄に乗車するたびに不思議に思っていたことのひとつが、車両ドアの両脇に設置されている「開」ボタンです。現在、地下鉄のドアの開閉は運転手が操作しております。ですので、このボタンはかつて使用されていたものの、今は「飾り」になっているとばかり思っていたのですが、時折ランプが点灯し、押したらドアが開くのでは…? と期待させるボタンがあるのです! 実際に、急いで降車あるいは乗車したい乗客や勝手のわからない旅行客が、ボタンを一生懸命に押している姿をしばしば見かけます。わたくしも試しに押してみたことがございますが、作動いたしませんでした。
一体なぜ、乗客に期待させるようなことをするのでしょう? また、何ゆえ「開」ボタンは使われなくなったのでしょうか。ロンドン交通局(TfL)に問い合わせてみることにいたしました。
広報担当者のお話では、「開」ボタンの使用が中止になったのは1990年代後半とのこと。簡潔にまとめますと、ロンドンの地下鉄ドアのボタンは基本的に「開」のみで「閉」は設置されておりません(エレベーターと同じですね)。つまり、乗客がボタンを押して手動でドアを開けた後、一定時間が過ぎるまでドアは閉まらないことになります。すべてのドアが閉まるのを待ってから発車するよりも、運転手が操作して一斉に自動でドアを開閉するほうが、通勤ラッシュ時などは運行がスムーズになることに気づいたのだそうです。
とくに当時セントラル線で起きた事故により、ボタン廃止の風潮が高まったのだとか。どうやらセントラル線のみ「開」「閉」の両ボタンが設置されているそうで、ある乗客が周囲を確認せずにドアを閉めた結果、小さな男の子がドアに挟まれ、大けがを負ってしまったのだそうです!
ちなみに、ボタンのランプが点灯しているのは、非常口としてすぐに使えるよう「待機状態」になっているためとのこと。
また、始発の駅では発車するまで時間がありますので、ドアを開けたまま停車している場合もありますが、冬の寒い時期などは車内にできるだけ冷気が入り込まないよう、乗客がボタンを押して自分で乗り込むスタイルにしている路線もあるとおっしゃっていました。あのボタン、まったく使用されていないわけではなかったのですね…。大変勉強になりました。
それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成29年10月7日 るり子
週刊ジャーニー No.1005(2017年10月12日)掲載