徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、日本のキャンディー「チェルシー」
にはロンドンの地名がつけられておりますの


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、いかがお過ごしでしょうか?

日本は夏真っ盛り、昼間は気温が30度を超えるのは当然のこと、深夜でも25度ほどと寝苦しい夜が続いているとうかがいました。おばあ様は夏が苦手でいらっしゃいますから、夏バテなどで体調を崩されておられないか、とても心配です。今年も軽井沢に静養に行かれるのでしょうか…?

さて本日もご報告したいことがありますので、筆を進めさせていただきますね。

日本で人気のある昔ながらのキャンディといえば、明治の「チェルシー」と不二家の「ミルキー」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。わたくしはどちらかと言えば「チェルシー派」だったのですが(とくに緑色のヨーグルト味が好きでした)、ロンドンにまいりまして、久々にチェルシー・キャンディを思い出す機会がございました。それは「地名」です。

実は、わたくしが今住んでおります場所は、ケンジントン&チェルシー地区。そう、あの懐かしいキャンディと同じ名称なのでございます! チェルシー・キャンディとロンドンのチェルシー地区、両者には何か関係等があるのでしょうか…。好奇心が湧きましたので、調べてみることにいたしました。

明治のウェブサイトによりますと、「新しいキャンディづくり」を目指して模索していた同社がたどり着いたのが、スコットランドの伝統的なお菓子「バタースコッチ」だったとのこと。

バタースコッチはブラウン・シュガーとバターを材料としており、やわらかで濃厚なキャラメルのようなお菓子と説明すれば、お父様も想像しやすいことでしょう。同社はこのバタースコッチの味と滑らかな食感を取り入れたキャンディをつくろうと、それまで日本で行われていなかった新たな製法に挑戦。当時はバターの含有量が5~6%が一般的だったそうですが、この挑戦が成功し、バターがたっぷりと含まれた「バタースコッチ・キャンディ」が誕生したそうです。

発売するにあたり、同社が次に悩んだのは名称。スコットランドの伝統菓子を参考にしたので、「英国」「伝統=高級感のある」イメージは欠かせなかったようです。様々な観点からたくさんの候補名が挙げられたとのことですが、最終的に絞り込まれたのが、ロンドンの高級住宅地名「チェルシー」と、そのチェルシー地区を横断するハイストリート「キングズロード」の2つだったそうです。そして市場調査の結果、人気の高かった「チェルシー」が採用されたとのことでした。

ちなみに、キングズロードは17世紀の国王チャールズ2世が建造を命じた道で、19世紀初めまで「王家専用」の私道だったとか!

色々と調べておりましたら、チェルシー・キャンディが恋しくなってまいりました…。次回の帰国の際には、英国人の友人へのお土産として、チェルシー・キャンディを購入しようかと思っている次第です。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年7月22日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年10ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

週刊ジャーニー No.994(2017年7月27日)掲載

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