徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、英国では賭け事が合法化されておりますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、いかがお過ごしでしょうか? 早速ではございますが、また新たに知りました事柄についてご報告いたしますね。

日本で合法とされている賭け事といえば、競馬、競輪、競艇、オートレースなどがありますが、英国ではこうしたスポーツのみならず、たとえば王室関連や芸能人、政治、天候に関するトピックまで、あらゆる事柄に公式に賭けることができ(「人が亡くなる」「事故が起こる」といった不謹慎な事柄は賭けられません)、文化の違いを感じさせられます。もちろんカジノなどの大型ギャンブル施設も営業しておりますが、英国人にとってより身近なもののひとつが、「ブックメーカー」と呼ばれる政府公認の賭け屋での賭け。街中にはブックメーカーの経営するチェーン店が溢れており、英国3大チェーン「William Hill」「Ladbrokes」「Coral」をあちこちで見かけます。英国で大きなイベントが起きる前には、新聞にブックメーカーの名前が登場し、賭け率が発表されます。先日も「メイ首相が続投なるか」で賭けが行われていたようでした。

それにしましても一体なぜ、英国では賭け事が公的に認められているのでしょう? 気になりましたので、調べてみることにいたしました。

1934年に創業した業界第1位の「William Hill」に問い合わせましたところ、興味深いお話をうかがうことができました。本社の広報担当の男性によりますと、英国でいつ賭け事がはじまったかについては諸説あるとのこと。ただ18世紀後半に、ハリー・オグデンなる男性が、サフォークにあるニューマーケット競馬場ではじめたのが最初とする説が、もっとも有力視されているとか。

1790年代、オグデン氏がニューマーケット競馬場でレースを観戦していたときのこと。当時の競馬といえば、王侯貴族をはじめとする有力者が、自身の所有する馬をレースに出場させ、成績優秀な馬と繁殖させてより優れた馬を得るための場でした。オグデン氏も最初は「そういう目」で馬を物色しながらレースを見ていたものの、レース前に「元気でよい馬だ」と感じた馬が優勝するという経験を繰り返すうちに、「レースの勝敗を予想する」ことに楽しみを覚えたそうです。すぐにオグデン氏は「これは商売になる」と思い立ち、周囲の人々を呼び集めて賭けをはじめたということでした。彼は出走馬名や掛け率、レース結果、配当金などの全記録を台帳(ブック)に書き込んで管理したため、「台帳をつくる人=ブックメーカー」と呼ばれるようになったとのことでした。

当初は「由緒正しき競馬を賭けの対象にするのは不適切」と、風当たりが強かったそうですが、オグデン氏に追従する業者が急増したことから、英政府は1845年に競馬を対象としたギャンブル禁止法を制定。ところが、違法にもかかわらず賭け屋は増え続けたため、1960年に「政府発行のライセンスを取得すれば営業できる」とする許認可制へと変わり、賭け事が合法化されたとおっしゃっていました。禁止しても抑制できないなら、政府の管理下で営業させようという発想は、日本にはあまりないのでは? 今回またひとつ、英国について学ぶことができました。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年6月18日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年9ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。