何ゆえ、ロンドン警視庁を
スコットランド・ヤードと呼びますの?
愛するお父様へ
いよいよ6月に突入、今年も半分が過ぎようとしております。月日が過ぎ去るのが年々早くなっているように感じるのですけれど、それはロンドン生活が充実しているからなのでしょうか…。お父様は、いかがお過ごしですか?
さて本日もまた、新たに発見したことをご報告いたしますね。
テレビのニュース番組を見たり、新聞を読んだりしておりますと、「スコットランド・ヤード」という言葉がしばしば登場いたします。わたくしが初めてこの言葉に出会ったのは、ロンドンで起きた盗難事件の記事でしたでしょうか。そのまま読み進めたものの、所々で登場する「スコットランド・ヤード」の意味がよくわかりませんでした。「スコットランドのお庭が、どうして事件に関係するのかしら…」と不思議でならず、エドワーズ夫人に尋ねましたところ、「それはロンドン警視庁(Metropolitan Police Service, MPS)のことですよ」と教えてくださいました。
一体なぜ、ロンドンの警察を「スコットランド」という地名で呼ぶのでしょう? 疑問がわき、ロンドン警視庁に問い合わせてみることにいたしました。
ロンドン警視庁の方のお話では、1829年に「警察法」が成立し、正規の警察組織としてシティ以外のロンドンのほぼ全域を管轄下におく「ロンドン警視庁」が誕生したとのこと。当時、ロンドンは17の管轄区域に分けられていたそうですが、その警察本部が置かれた場所がウエストミンスター地区のホワイトホール・プレイス4番地でした。この本部庁舎の裏側は「グレート・スコットランド・ヤード」という通りに面しており、一般入口はこの通り沿いにあったのだとか。警察に用のある市民はこのグレート・スコットランド・ヤードにある入口を使っていたことから、ロンドン警視庁のことを通称「スコットランド・ヤード」と呼ぶようになったとおっしゃっていました。
ちなみに、通りの名前の由来は、なんと中世までさかのぼるようです。当時、同地一帯には国王の住居である広大な「ホワイトホール宮殿」が建っており、その敷地内に「グレート・スコットランド・ヤード」「ミドル・スコットランド・ヤード」「リトル・スコットランド・ヤード」と命名された屋敷があったとか。これらはスコットランドの王族や賓客が滞在する場所として建造されたため、「スコットランド」の名が付けられたとのこと。17世紀の大火災で建物はすべて焼失してしまいましたが、一番大きな屋敷であった「グレート・スコットランド・ヤード」の名称のみ、通りの名前として残ったとのことでした。
ロンドン警視庁本部は何度か移転しており、ウェストミンスター・ブリッジ近くのテムズ河沿いに完成した現本部は4代目。今年から使われはじめたばかりです。しかしながら、どれほど場所は変わろうとも「スコットランド・ヤード」という昔ながらの通称は、そのまま使われているそうです。日本の警視庁のことを専門用語で「桜田門」というようなものでしょうか…(日本の場合は、移転しておりませんけれど)。
それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成29年5月29日 るり子