徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、英国では調理後の油を

流しに捨ててしまいますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりございませんでしょうか? 本日もまた、日英の習慣の違いについて発見したことをご報告いたしますね。

先日、英語学校の友人のホームステイ先である英国人家庭で開かれたホームパーティーに、招かれたときのことです。後片付けを手伝っておりましたところ、ホストファミリーのお母様が、料理に使った油(フライパンに2センチほどはありましたでしょうか…)に食器用液体洗剤をさっと混ぜ、そのまま無造作にキッチンの流しに捨ててしまわれたのです! わたくしは驚いてしまい、思わず彼女に「(そのような捨て方をして)大丈夫なんですの?」と尋ねますと、逆に「何かいけないのかしら?」と不思議そうなご様子。日本では、新聞紙やキッチンペーパーに油を染み込ませたり、空いた紙パックなどに入れたり、粉末の専用製品で油を固めたりして、「燃えるゴミ」として捨てるのが一般的です。そのことを説明いたしますと、とても感心なさっていたものの、必要性を感じてはいただけませんでした…。

帰宅しましてから、エドワーズ夫人にこの話をいたしました。すると夫人も、以前は同じように液体洗剤を混ぜて流しに直接捨てていらしたとのこと。英国では、から揚げや天ぷらのように、大量の油を使って調理する機会が少ないので、これまであまり大きな問題とされてこなかったのでしょう。あるいは、英国では「配水管が詰まらなければ流してもOK」なのでしょうか? ケンジントン・チェルシー地区のカウンシルに問い合わせてみることにいたしました。

同カウンシルの食品・衛生管理を担当する部署の方に尋ねましたところ、調理後の油の捨て方について特別な指導は行っていないそうです。しかしながら「模範的な捨て方」として、一応マニュアルがあるのだとか。それによりますと、油が流動的なうちは「ふたの締まるプラスチック・ボトルなどに入れて、他のゴミと一緒に捨てる」、油が固まった後なら「新聞紙などで包んで捨てる」とのこと。油は凝固しやすいので、そのまま流しに捨てると配水管を詰まらせる原因になるばかりか、下水の浄化作業を滞らせることにも繋がるとか(日本と同じですね)。

ただ最近は環境保護の点から、流しに捨てられて下水に流れ込んだ油を有効利用しようという動きが出てきたとおっしゃっていました。4年ほど前に、テムズ・ウォーター社がロンドンの下水道に溜まった油を燃料として「電気」を起こす発電システムを開発。下水道の詰りが解消される上に、発電もできる画期的なシステムとして注目を浴びたそうですが、まだ実用化には至っていないとのことでした。

下水道が詰まった結果、地面を掘って油の塊を除去する工事はロンドン各地で頻繁に行われています。こうした工事は交通渋滞を招き、事態は深刻化していっていると言っても過言ではないように思います。油を無造作に流してしまった後の対処法を考えるよりも、各自治体や家庭でマニュアルにあるような「正しい油の捨て方」を指導していくことに力を入れるべきなのでは、と感じた次第です。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年5月20日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年8ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

 

 
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