何ゆえ、ロンドンの街中で
カモメを見かけますの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
先日、エドワーズご夫妻とそのご友人一家と一緒に、チルターン・ヒルズという丘陵地帯でハイキングを楽しんでまいりました。今年は花の盛りが早く、桜はあっという間に散ってしまいましたが、その後の気温の低下により、森の中では一面に咲き誇るブルーベルをどうにか目にすることができました。日本では気温が30度近くまで上がっていると聞いております。体調など崩されませんよう、ご自愛くださいませね。
さて、今日も新たに知り得ました事柄をご報告いたします。
ロンドンでは、毎日のようにカモメの姿を見かけます。「クアー、クアー」と大きな鳴き声を上げながら空を飛ぶカモメを眺めておりますと、どこからか潮の香りが漂ってくるような気がして、不思議な気持ちになります。渡英して間もない頃は、カモメの多さに驚き、「ロンドンは海辺の街でしたかしら…?」と大変困惑いたしました。だってお父様、オックスフォード・ストリートを歩いていてカモメを見かけるなんて、日本にいたときは想像できませんでしたもの! 一体なぜ、テムズ河の河口から離れた街の中心部で、このように頻繁にカモメを見かけるのでしょう? 調べてみることにいたしました。
英王立鳥類保護協会(RSPB)に問い合わせましたところ、スタッフの男性が親切に対応してくださいました。彼のお話によりますと、「日本ではカモメは冬に現れる渡り鳥として知られているかもしれませんが、英国では基本的に一年中姿を見ることができますよ」とのこと。ただ、英国でも海岸や海に近い河口などに生息することは変わらないようで、以前は、ロンドンではテムズ河の河口周辺のみで見かける鳥だったそうです。
ところが、1970年代後半からロンドン中心部のほか、水辺から遠く離れた内陸の町にもカモメが出現。大型スーパーマーケットの駐車場や公園、裏路地などに、まるでハトやカラスのように寄り集まるようになってしまったのだとか。この現象はとくに冬季に多く見られるそうで、「エサを探している」のだとおっしゃっていました。水質汚染によりテムズ河に生息する魚類が減少し、河沿いも整備されて食べ物を確保することが困難になったため、街中へ進出してきているのだそうです。街中には食べ捨てられたゴミや溢れかえるゴミ箱がたくさんあり、いつでもそれらを漁ることができるので、冬でもエサに困らないというわけです。
BBCの発表によると、食料に困らなくなったことから、なんと年々約10%ずつカモメの数が増加していっているとか…。
ちなみに友人は、ロンドンで夜間に通りを彷徨うキツネを見かけたことがあるそうです。しかも4度も! これもやはり、森林伐採や都市開発で住処を追われたキツネが、エサを求めて街中に現れているのでしょう。庭に入り込んで、ペットや子どもを襲う事件も起きていますので、カモメやキツネを見かけて暢気に喜んではいけないのだということを、今回学んだ次第です。
それでは今日はこのへんで。今週の日曜(14日)は、日本では母の日でございますね。お母様にも、くれぐれもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成29年5月8日 るり子