徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、レッド・ノーズ・デーに
赤い鼻をつけますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、いかがお過ごしでしょうか? 本日もまた、新たに知りました英国の習慣についてご報告したく、筆をとりました。

先日、エドワーズ夫人と一緒にスーパーマーケットを訪れたときのことです。レジ近くの棚に、手のひらサイズの赤いボールのようなものが積まれているのを目にいたしました。ユニークな顔が描かれているものもあり、不思議に思って眺めておりますと、エドワーズ夫人が「もうすぐレッド・ノーズ・デーですね」とひと言。棚をよく見ましたところ、確かに「RED NOSE DAY,24 March」と書かれています。そういえば、友人と街中を歩いておりました際に、ピエロのように赤い鼻をつけた男女が、バケツを持って募金を呼びかけている姿を見かけたことを思い出しました。販売されている赤いボールのようなものも、そのとき彼らが身につけていた鼻によく似ています。レッド・ノーズ・デーとは、一体どのような日なのでしょう? また、このグッズにはどういった意味があるのでしょうか。日本では馴染みのない習慣に興味がわき、調べてみることにいたしました。

調べを進めていきますと、レッド・ノーズ・デーとは「コミック・リリーフ(Comic Relief)」というチャリティ団体が、隔年で主催しているイベントであることがわかりました。早速、この団体に問い合わせてみましたところ、担当の女性が親切に対応してくださいました。

彼女の説明では、脚本家で映画監督のリチャード・カーティスさんとコメディアンのレニー・ヘンリーさんによって、1985年に創設されたチャリティ団体が「コミック・リリーフ」なのだとか。1983~85年にかけて、エチオピアで大飢饉が発生。約100万人が餓死したとのことで、この飢饉に心を痛めたカーティス監督たちが、子どもたちを貧困から救おうとチャリティを呼びかけるイベントを始めたそうです。「子どもたちに笑顔を届ける人」=「子どもを楽しませてくれるピエロ」を連想したとのことで、そのピエロにちなんで赤い鼻をつけるのだとか。カーティス監督は「笑いは最良の薬」という信念を持っておられるそうで、赤い鼻をつけて人を笑わせて、その笑いを通して周囲の人々をも笑顔に変えることが、このイベントのテーマなのだとおっしゃっていました。

後日、エドワーズ夫人とレッド・ノーズ・デーについて話しました際に、カーティス監督はロマンチック・コメディを得意としており、「Mr.ビーン」シリーズや「ノッティングヒルの恋人」の脚本を担当し、「ラブ・アクチュアリー」などの監督を務めていたことを知りました。わたくしも渡英前にこれらの映画を拝見しましたが、あのような明るく楽しいストーリーをつくり出す方が発起人であることに納得した次第です。

ちなみに、レッド・ノーズ・デーは奇数年の3月の金曜日に行われるそうで、今年は3月24日です。その日にはスペシャル企画として、BBC1で「ラブ・アクチュアリー」の続編が放送されるとのこと。当時の出演者が14年ぶりにそろって登場するそうで、わずか10分という短さですが、かなり話題になっているようでした。わたくしも今年は思い切って、赤い鼻をつけてみようかと思います。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年6ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

 

 

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