何ゆえ、ロンドン塔の衛兵は
「ビーフィーター」と呼ばれますの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
お父様、わたくしが中学生の頃、ロンドン出張のお土産として「キーホルダー」をくださったのを覚えていらっしゃいますでしょうか? 先日、英語学校の友人とロンドン塔の見学にまいりました際に、10年以上の時を経て「ある謎」がやっと解けましたのでご報告いたしますね。
その謎とは、キーホルダーに刻まれていた人物についてです。キーホルダーには微笑む3名の男性が描かれており、1人目は紺色の制服を着た警察官、2人目は赤い制服に黒い毛皮の帽子をかぶった王室近衛兵であることは、ひと目でわかりました。でも3人目の人物が誰なのか見当もつきません。お父様にお尋ねしましたけれど「自分で調べてみなさい」とおっしゃるばかり。結局、謎は解明されずにそのままになっておりました(不勉強な娘で申し訳ございません…)。
さて、先週末に初めてロンドン塔を訪れましたところ、衛兵が身にまとう制服が、キーホルダーの「3人目の男性」に酷似していることに気がつきました。「3人目の男性」の制服は赤色なのですが、衛兵の制服は紺色。しかしながら上着丈の長いデザインなど、大変よく似ています。衛兵の方に思い切って尋ねてみますと、祝宴などの特別なイベントの際に着用する正装は赤であることを教えてくださったのです! やっと謎が解けて、すっきりいたしました次第です。
それにしましても、警察官、王室近衛兵と並ぶほどに有名なロンドン塔の衛兵。通称「ビーフィーター(Beefeater/牛肉を食べる者)」と呼ぶそうなのですが、比較的お年を召した男性が多いように見受けられます。一体どのような方々なのでしょう? せっかくの機会ですので、衛兵の方に直接うかがってみることにいたしました。
わたくしの突然の質問にも動じず、丁寧に対応してくださったのは、ビーフィーターのアラン・キングショットさん。キングショットさんによりますと、彼らの正式名は「ヨーマン・ウォーダーズ (The Yeomen Warders)」というとのこと。15世紀に創設された市民義勇軍で、国王とともに戦場を駆け巡ったそうです。やがて監獄の囚人たちを監視したり、王室所有の財宝などを守護したりする役目も担うようになったのだとか。ロンドン塔はかつて王宮であり、監獄でもありましたので、ヨーマン・ウォーダーズは必然的にロンドン塔に常駐する衛兵となったようです。
時が流れて王宮の場所は移り、ロンドン塔も観光地と化しましたが、彼らはそのままロンドン塔を守り続けているとのこと。ただ方法は時代とともに変化し、ヨーマン・ウォーダーズとしての伝統を守りながらロンドン塔の歴史を伝え、観光客の安全を確保することが役目とおっしゃっていました。現在この職に就くためには、22年以上の軍歴と善行章の受勲経験が必須。それゆえに、王室近衛兵と違って若い方を見かけなかったのですね。
ちなみに、ビーフィーターと呼ばれるようになった由来は、はっきりとわからないのだとか。ですが市民出身にもかかわらず、お給料はよくないものの寝食は補償されていたことから、地元市民に妬まれていたそうです。市民がなかなか口にできない高級食材の牛肉を食べていたので、「牛肉を食べる者」と呼ばれたのでは、とのことでした。なるほど、大変勉強になりました。
それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成29年2月11日 るり子