徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、英国ではクリスマス飾りを
すぐに片付けませんの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、新年早々とても衝撃的な出来事が起きてしまいました。日本から持参した大切なノート型パソコンが、故障してしまったのです! わたくしがキーボードの上に紅茶をうっかりこぼしてしまったのが原因ですので、自業自得なのですけれど、大変ショックを受けている次第です。今後このようなことが起きないよう、気を引き締めて過ごしてまいりたいと反省しております…。

さて、今回も日本と英国の違いをまたひとつ発見いたしましたので、ご報告いたしますね。

日本では12月25日のクリスマスが過ぎると、翌日からはお正月ムードに一気に様変わりいたします。店先には門松が立ち、店内ではお琴の演奏が流れ、テレビでもおせち料理の映像を頻繁に目にするようになるなど、その「早わざ」には毎年感心しておりました。

一方、英国では意外なことに、新年を迎えてもまだ街中にクリスマス・ムードが漂っています。クリスマス・イルミネーションやクリスマス・ツリーは、1月初旬まで飾られたまま。前回の年末年始は日本で過ごしましたが、英国に戻ってまいりましたときに、いまだ光輝くクリスマス・ツリーを見かけて、何やら違和感を覚えました…。一体なぜ、英国ではクリスマス飾りをすぐに片付けないのでしょう? ふと興味がわき、調べてみることにいたしました。

いくつか資料をあたりましたところ、なんと英国では、クリスマス飾りは一般的に「1月6日」に片付ける習慣があるようです! 1月6日は「公現祭(Epiphany)」と呼ばれ、クリスマスのお祝いの最終日にあたるとのこと。キリストの誕生を知った東方の三博士が、12日間かけてイエス・キリストのもとへたどり着き、拝謁した日だそうです。そして、クリスマス(キリストの誕生日)から数えて12日目の夜にあたる1月5日の夜を「十二夜(Twelfth Night)」と呼び、十二夜を過ぎてもクリスマス・ツリーなどを飾っているのは縁起が悪いとされているのだとか。キリスト誕生の祝祭は12月25日だけでなく、本当は1月6日まで続いているのですね。

それにしても、十二夜までにクリスマス飾りを片付けなければいけないとしますと、「1月6日」に片付ける習慣は、どこから生まれたのでしょうか?

これにつきましては、どうやら宗教的な相違が背景にあることがわかりました。元来ユダヤ教では、クリスマス当日から数えて12日目(1月5日)の夜を十二夜したようですが、欧米を中心とするキリスト教徒のあいだではクリスマスは祝祭日にあたるため、その翌日の12月26日から数えて12日目(1月6日)の夜を十二夜としたとか。こうした事情から、英国では1月6日中にクリスマス飾りを片付けるのが一般的とされているとのことでした。…少々ややこしいですね。

日本のひな祭りでも、3月3日が過ぎた後、すぐに雛人形を片付けないと嫁入りが遅れるなどと言われますが、それの英国版といったところでしょうか。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成29年1月8日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の26歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年3ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

 

 

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