何ゆえ、ロンドンでは冬に霧が発生しますの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
今年も瞬く間に月日が過ぎ去り、もう年越しが目の前に迫ってまいりました。今年はロンドンで年末年始を迎えようと思っておりますが、お父様もたまにはお身体を休めて、山手のお屋敷でのんびりとお正月をお迎えくださいませね。
さて、本日も英国について新たに知り得ましたことをご報告したく、筆をとりました。
先日、朝起きてカーテンを開けましたら、深い霧が立ち込め、外一面に「銀世界」ならぬ「白世界」が広がっていました。今冬は昨年よりも、霧が発生する日が多いような気がいたします。ロンドンの霧は一日中漂っているわけではなく、朝方のうちに晴れてしまうことがほとんどなのですが、わたくしはこの幻想的な風景がとても気に入っております(車で通勤なさっている方は迷惑かもしれませんけれど…)。昔は「霧の都」などと呼ばれていたロンドンですが、一体なぜ霧が発生するのでしょう? 気になりましたので、調べてみることにいたしました。
様々な資料をあたりましたところ、どうやら以前、お父様にご報告いたしました「英国の変わりやすい天気」で言及した「海流と大気」が大きく関連していることがわかりました!
あのときの手紙では、「赤道近くのアフリカ沖で暖められた南大西洋の暖流が北上、ヨーロッパ大陸西岸に流れこみます。英国付近でその暖流はちょうどユーターンし、また偏西風が海流上の暖気を運んでくることから、樺太とほぼ同位置にあるロンドンもそれほど冷え込みません」との話をお伝えいたしました。霧の場合も、同じ仕組みから生まれるようです。
暖流とともに偏西風によって運ばれてきた暖かく湿った大気が、ヨーロッパ大陸の西岸に停滞している冷たい大気と、英国付近でぶつかります。すると暖かく湿った大気が急速に冷やされ、暖気中に含まれていた水分が小さな水粒に変化。その水粒が空中に浮かんでいる状態を「霧」と呼ぶとのことでした。冬に霧が発生しやすいのは、大気の寒暖差が大きいためなのだとか。発生時間も、やはり冷え込む夜や朝方が多いそう。
ちなみに今回の調査で、かつてヴィクトリア朝時代にロンドンが「霧の都」と呼ばれていたのは、どうやらこの白い霧のせいではなかったことも知り得た次第です。
当時からロンドンは冬に濃い霧が発生することで知られていたようですが、「霧の都」の霧とは「黒い霧」のことで、各家の暖炉や蒸気機関車から吐き出される石炭の煙が濃霧と混ざりあって、なんと常に空は黒く覆われていたそうです! 1メートル先が見えないほどに視界は悪く、ロンドン東部の工業地帯などでは工場からの煤煙も合わさって自分の足元も見えないほどだったとか。まさに「一寸先は闇」の世界です…。黒い霧は呼吸器疾患や心臓病など、多くの健康被害や死者を出し、大気汚染として社会問題になりました。「霧の都」は、ロマンチックな褒め言葉ではなかったのですね。少々驚きました。
それでは今日はこのへんで。よいお年をお迎えくださいませね。そしてお母様にも、くれぐれもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成28年12月19日 るり子