徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

2016年3月11日

何ゆえ、英国では
春に大掃除をいたしますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりありませんでしょうか? いまだ朝の冷え込みが厳しい英国ですが、近ごろやっと芽吹きの季節が訪れたようで、ホームステイしておりますエドワーズご夫妻宅のご近所では水仙や木蓮のほか、薄紅色の小さな桜の花が咲きはじめているのを見かけるようになりました。日本の天候はいかがでしょうか。

さて、今日は常々疑問に思っておりました事柄について調べましたので、それをご報告したく筆をとりました。

日本では、年末の行事のひとつとして定着している「大掃除」。一年間の汚れを綺麗に落とし、門松やしめ縄を飾ってスッキリとした気持ちで年明けを迎えるのが習慣となっておりますが、英国では年末に大掃除をいたしません。クリスマスの少し前から休暇に入り、新年の「仕事始め」は1月2日(土・日曜日が重なると、ずれることもございます)。つまり、クリスマス休暇が日本のお正月休みにあたるため、この時期は家族でのんびりと過ごすのです。

では、英国人は一体いつ大掃除をしているのでしょう? エドワーズご夫妻に尋ねてみますと、なんと英国の大掃除はイースター(復活祭)前のちょうど今、3月に行われるとのこと! 「スプリング・クリーニングspring cleaning」と呼ばれているそうで、その起源について調べてみることにいたしました。

いくつか文献をあたりましたところ、冬に使用した暖炉に溜まった薪の木屑や灰、石炭のススなどで汚れた家を、春になって暖炉を使わなくなった頃を見計らって一掃したのが、スプリング・クリーニングの始まりのようです。やがて、寒くて窓を開けられない冬の間、家中に蓄積したホコリなどもこの掃除で徹底的に除去するようになり、「新たな気持ちで春を迎えよう」という習慣に変わっていったのだとか。

英国では、本格的な春はイースターとともにやって来ると考えられておりますので、イースター期間(今年は3月25日~28日です)の前に、大掃除を終わらせておくようです。日本も昔は1月が春の始まりとされていたことを鑑みますと、新しい季節を目前に掃除をして心機一転! との発想は、日本も英国も一緒のようですね。

ちなみに、英国には「National Spring Cleaning Week」(いわゆる「大掃除週間」)なるものがあり、今年は3月14日~20日とのこと。エドワーズご夫妻宅でもセントラル・ヒーティングを消し(今後、さらに冷え込まないことを祈ります!)、しっかりとスプリング・クリーニングを行うそうですので、わたくしもご夫妻と一緒に家中を隅々まで掃除して、春の訪れを待ちたいと思っております(日本では家政婦さんたちに任せきりでしたが、英国にまいりましてからは、掃除も得意になったのですよ!)。

それでは今日はこのへんで。季節の変わり目ですので、くれぐれもお風邪などお召しになりませんように。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成28年3月7日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英1年5ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。