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徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2016年2月5日
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何ゆえ、パンケーキ・デーに
パンケーキを焼きますの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 日本では節分の時期でございますね。節分とは冬から春へと季節が移り変わる「節目の日」、翌日の立春以降は時候の挨拶でも寒さを「残寒」と表現するなど、春の訪れは目前とされています。実は英国にも、暗くて長い冬に終わりを告げ、春への第一歩とされる日があります。今回は、この「パンケーキ・デーPancake Day」についてご報告いたしますね。
 英国ならではの習慣や行事は数え切れないほどございますが、パンケーキ・デーもそのうちのひとつです。この名が表すとおり、各家庭でパンケーキを焼いて食べる日なのですが、初めて耳にした際は「なんて美味しそうな響きなのかしら…」とウキウキいたしました。日本における「サンドイッチの日」(3月13日)や「焼肉の日」(8月29日)と同様の、いわゆる『語呂合わせ』か何かで生まれた記念日と思っておりましたら、イースター(復活祭)に関連するれっきとした宗教的な習慣なのだそうです。一体どのような由来があるのでしょう? 興味を覚え、調べてみることにいたしました。
 イースターとは、十字架にかけられたイエス・キリストが『復活』したことを祝う、キリスト教世界ではクリスマス(生誕の日)以上に重要な祝日です。イエス・キリストはイースター前夜までの日曜を除く40日間、荒野で断食をしました。それにちなみ、キリスト教徒もその期間はできる限り断食し、祈りを捧げたそうです。断食期間は「レントLent」と呼ばれ、断食の始まりの日は「Ash Wednesday」(灰の水曜)と名付けられました。灰の水曜の前日は、これまで犯した罪を告白する日「Shrove Tuesday」(告解の火曜)と定められ、それと同時に、翌日からのレントに備え、家の中にある卵、乳製品、砂糖などの食材を使い切ろうとパンケーキを焼いたことから、別名「パンケーキ・デー」と呼ばれるようになったとのこと。現在は宗教的な意味合いは薄まり、みんなでパンケーキを楽しむ日となっています。
 ちなみに、この日は英国各地でパンケーキを乗せたフライパンを持って走る「パンケーキ・レース」が開かれます。今年67回目を迎えるバッキンガムシャーの町オルニーで行われるレースが有名で、町在住の18歳以上の女性たちが約380メートルを走り抜けます。レースのスタート時とゴール時に、パンケーキをフライパンの上でひっくり返さなくてはいけないとのルールもあるとか! このレースの起源は1445年にさかのぼり、パンケーキ・デーにパンケーキを焼いていて教会の告解時間に遅れそうになった主婦が、フライパンを持ったまま教会まで走ったことが始まり。そのため、オルニーでのレース参加者は三角巾、エプロン、スカート(当時の主婦の服装ですね)の着用が必須です。
 パンケーキ・デーが近づくと、スーパーには小麦粉、卵、砂糖などを集めたパンケーキ・コーナーが現れます。英国のパンケーキは、日本のホットケーキとは異なり、モチモチとした厚めのクレープのような感じです。レモンを絞って、砂糖をたっぷりと振りかけるのが英国式。今年のパンケーキ・デー(2月9日)には、エドワーズ夫人と一緒にパンケーキを焼いて楽しもうと思っております。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成28年2月1日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英1年4ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

ruriko