徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年11月27日
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何ゆえ、ロンドンでは
電線を見かけませんの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 先週末、ハイドパークにオープンした冬限定の巨大移動式遊園地「ウィンター・ワンダーランド」に友人と行ってまいりました。クリスマス・マーケットでお買い物を楽しんだ後、大観覧車に乗ったり、バンドの生演奏を聴きながらホットワイン(英国ではモルドワインmulled wineと申します)で冷えた身体を温めたりと、ロンドンの冬の風物詩を満喫いたしました。次は、サマセット・ハウスのスケートリンクにも足を運んでみようと思っております。
 さて本日は、日本と英国の違いをまたひとつ発見いたしましたので、ご報告いたします。
 ロンドンには賑やかなショッピング街がいくつかあり、オックスフォード・ストリートやリージェント・ストリートはその代表的なものに挙げられます。毎年11月中旬ごろから翌年の1月初旬まで、これらの通り沿いのショップには様々なクリスマス・デコレーションがほどこされ、とても華やかな雰囲気になります。そうした飾りつけの中でも、もっとも大規模なものが「クリスマス・ライト」と呼ばれるイルミネーションです。
 オックスフォード・ストリートやリージェント・ストリートでは、通りの両脇にたちならんだ建物を結ぶ「橋」のようにイルミネーションが設置されるため、ライトアップされた歴史的な建物との相乗効果で、とても煌びやかに見えます。ダブルデッカー(2階建てバス)の2階の最前列に運よく座れた際には、まるで「光のトンネル」を通り抜けているようで、うっとりと見入ってしまいました。ぜひお父様にもご覧になっていただきたいと写真を撮ろうとしましたところ、「あるもの」が見当たらないことに今更ながら気がつきました。日本の空を縦横無尽に走る、あの「電線」がないのです! 思い返せば、電柱や電線をロンドンで見かけた記憶がございません。一体どういうことなのでしょう? 調べてみることにいたしました。
 資料によりますと、ロンドンの電線は地下に埋まっているようです。そういえば、日本でも景観向上や災害対策の一環として「電線地中化」の推進が国会で話し合われるなど、昨年話題になっていたことを思い出しました…不勉強で恥ずかしい限りでございます。
 19世紀後半のロンドンでは、重要な公共事業のひとつに「電灯の建設」がありました。それまで街灯といえばガス灯でしたが、発火や爆発の危険性をともなうガス管は、地中化が義務付けられていたそうです。電灯が建設され始めるに至り、ガス灯会社が公正な競争条件を訴えたことから「電気法」が制定され、電線を地上に走らせることが禁止されたとのこと。ちなみに、パリも同じ事情で電線は地下にあるようです。
 ただ、これはロンドンに限定されたものですので、郊外へ出かけますと高圧電線の姿をしばしば目にします。日本と同様に、景観向上や強風・豪雨・積雪などの悪天候による電線の切断、盗難被害を減らすために、電線の地中化を国全体で目指してはいるようですが、コストの面からもなかなか実現に至っていないようです。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年11月24日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英1年2ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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