徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、金曜日には 魚を食べる習慣がありますの?

2015年11月13日

徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりありませんでしょうか?

さて、今日はまた、新たに知りました英国の習慣についてご報告したいと思います。

先週の金曜日、わたくし同様にホームステイをしながら英語学校に通っている日本人の友人が大きなため息をつきながら、「今日はフィッシュ&チップスの日だわ…」とおっしゃるのです。

詳しく聞きますと、英国では「フィッシュ・オン・フライデー(金曜日は魚の日)」といい、魚料理を食べるのが慣わしとのこと。ただ、その友人がホームステイしている家庭の奥様はあまりお料理がお上手ではないらしく、魚料理といえば「フィッシュ&チップス」、しかも近くの持ち帰り専門の店で買ったもので済ませてしまわれるのだとか。毎週金曜日は「フィッシュ&チップス」(肝心のフィッシュだけでなく、チップスの方も、お世辞にも美味しいとは言えないようです)、とその友人は嘆いているのでした。

エドワーズご夫妻にこのことを話しますと(ちなみにエドワーズ家ではこの習慣には従っていらっしゃいません)、確かに「フィッシュ・オン・フライデー」という、おそらくキリスト教と深いつながりのある習慣は存在するのだそうです。ただ、その理由まではご存知ありませんでしたので、思い切って調べてみることにいたしました。

まずは「チャーチ・オブ・イングランド(英国国教会)」に電話しましたら、カトリックの方がそういう事柄には詳しいはず、と言われ、そちらに尋ねることを勧められました。カトリックならば、エドワーズさんのご友人で詳しい方がいらっしゃるとのこと。早速紹介していただき、お話を聞いてみた次第です。

ジョーンズさんというその男性によりますと、この習慣の起源はローマ時代にまでさかのぼり、肉はダメだが魚は大丈夫、という「精進」の日が決められていたらしいのです。

時代とともに、この習慣がより明確になり、「レントLent(受難節のことで、灰の水曜日からイースター前夜までの日曜日を除く40日間のことでございます)」には、贅沢の象徴であるとして肉を食することが禁じられ、タンパク源は魚に頼らざるを得ませんでした。エリザベス1世の治世には、魚の輸入が奨励されたことも手伝い、この習慣は定着するに至りました。しかし40日間、肉はナシというのはかなりの苦行だったようで、後には、キリストが十字架にかけられたとされる金曜日だけに緩められ、それが習慣化したのだそうです。

また、どのくらい厳格に行われているかは家庭によって異なり、「昔は習慣化していたけど、今は行っていない」という人や、イースター前だけ実行する人などがいる一方、友人のホームステイ先のように、毎週行っている家庭もあるようです。

友人には気の毒ですが、とても長い歴史を秘めている上に、宗教に関連した習慣ですので、ホームステイ先の奥様に「フィッシュ&チップスは勘弁してください」とはとても言えなさそうですね。また、興味深いことに出会いましたらご報告いたします。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成27年11月9日 るり子



とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の27歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英3年2ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。