何ゆえ、馬の落とし物には おとがめがありませんの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
お父様、お変わりありませんでしょうか? ロンドンにおけるこの季節の風物詩といえば、毎年11月5日前後に各所で行われる花火とかがり火のイベント「ボン・ファイヤー・ナイト」のほかに、11月の第2土曜日に開催される市長就任式典「ロード・メイヤーズ・ショー」がございます。市長といいましても任期1年の名誉職で、伝統的な衣装に身を包んだ市長が絢爛豪華な馬車に乗ってお披露目を行うパレードと、テムズ河畔で打ち上げられる花火が式典のメインとなります。
とくに、ロード・メイヤーズ・ショーのパレードは毎年多くの見物客で賑わい、昨年はテレビ中継で見ただけでしたが、今年は沿道に出向いてみるつもりでおります。ただ、それ以来ずっと気になっておりますのが、馬の「落とし物」についてです。美しい話とはお世辞にも申せませんが、今回はこの件につきましてご報告いたしたく存じます。
パレードに登場する馬の数はかなりのもの。よく訓練されてはおりますが、やはり生理現象には逆らえません。パレードの途中であろうと、歩きながら大量に落していきます。公園や公道で飼い犬の落とし物を飼い主が放置した場合、ロンドンの多くの地区では罰金が科されますが(地区によって金額が異なります)、馬の落とし物についてはどうなっているのでしょう? 調べてみることにいたしました。
ロード・メイヤーズ・ショーの広報部に電話をかけましたところ、式典の後、すべてを完全に元通りにするための専任チームがあるとの返答をいただきました。馬の落とし物も含め、道路の清掃も彼らが責任を持って行っているとのこと。では、さまざまな苦情について対策を十分に講じていると思われるロード・メイヤーズ・ショーやトゥルーピング・ザ・カラー(女王陛下の公式誕生日を祝う式典)といった特別な行事以外では、どう対処しているのでしょうか?
街を巡回している騎馬警官の馬たちの落とし物について、メトロポリタン警察に問い合わせますと、「それは各行政区の仕事」とそっけなく電話を切られてしまいました…。それならば、と今度はウェストミンスター・カウンシルに尋ねてみることにいたしました。
丁寧に対応してくださった広報部の方によりますと、ウェストミンスター地区に関して言えば、騎馬警官が出動するときには「落とし物処理係」を派遣するようにしている、というのが建前なのだそうですが、実際には非効率的で税金の無駄遣いにもあたるため、通常の道路清掃係に一任しているのが実情、とおっしゃっていました。車道に放置された落とし物は自動車にひかれ、路面にこびりつき、結局は風化するか、雨で流されるまで待つしかないのでしょう。
また、各公園内の乗馬用道路などに残された落とし物は、「肥料になるのにまかせている」そうですし、基本的に馬の落とし物には罰金は科されないようです。犬の場合とは異なり、馬が車道などで落とし物をするたびに下馬して処理するのは危険を伴いますので、致し方ないのかもしれませんね。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成27年11月3日 るり子