徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、お酒の販売店には 『オフ』ライセンスの看板が 掲げられていますの?

2015年10月2日

徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりありませんでしょうか。さて本日も、英国について新たな発見がございましたので、ご報告したいと思います。

先日、イタリア人のジュリア嬢が主催するホーム・パーティーがございました。会が始まる前、ふたりでパーティー用の買い物をした途中で、彼女の家の近所でワインを買うことにいたしました。

向かった先は、小さな個人商店でございます。ジュリア嬢は、店のご主人と顔なじみの様子で、挨拶を交わしながらにこやかに店内に入っていったのですが、店の前に掲げられた「オフ・ライセンス」と書かれた看板が目に留まり、ハッといたしました。お酒の販売にはライセンスが必要なはず…。ですのに、店内に入ってみますと、お酒がずらりと並べられ、堂々と売られているのです。

これは一体どういうことなのでしょう。とても気になりましたので、店番をされていた恰幅のよいご主人に伺ってみることにいたしました。

その方(お名前はジョンさんと申されます)によりますと、酒類販売形態は主に2つのカテゴリーがあるとのこと。まずひとつは、店舗内での飲酒を前提とした販売。英語では「『on』the premises」(店内)と表現し、パブやレストランなどがこれにあたります。

もう一方は、持ち帰りを前提にお酒を販売する形態でございます。これは英語で「『off』the premises」(店舗から離れること)と表現され、リカーショップやスーパーマーケットなどでの販売を指します。前者をオン・ライセンス、後者をオフ・ライセンスと呼ぶのだそうです。

日本でしたらコンビニエンス・ストアなどの店頭に「酒」の表示があるのを頻繁に見かけます。英国でそれに代わるのが「オフ・ライセンス」の文字なのでしょう。「『オフ』は、ライセンスがないという意味ではないのだよ」と、ジョンさんはにこやかに教えてくださいました。

また、英国では販売時間に制限が設けられており、多くのオフ・ライセンスが夜11時には閉店、あるいは酒類のみ販売を停止するとのこと(ライセンスによっては24時間も可能のようです)。コンビニ等で24時間販売が行われ、夜間でも簡単にお酒を買うことができる日本に比べると厳しいと言えます。これに関して、サービス精神旺盛のジョンさんが、アルコールにまつわる英国の歴史を話してくださいました。

18世紀中ごろの英国で起こった、蒸留酒「ジン」の一大ブームにより風紀が乱れ、飲酒が社会問題に発展したとのこと。人々は怠惰な生活を送るようになったばかりか、赤ちゃんに良かれと思ってジンを飲ませ、死なせる事件(恐ろしいことでございます!)もあったのだそうです。頭を抱えた政府は、これを取り締まるために製造者や販売者に高い税をかける決定をいたしました。「英国でアルコール販売に厳しい規制があるのは、こういう歴史の名残があるのだろう」と話しておられました。

これでも緩和されたとのことで、ジョンさんのご記憶では、「25年くらい前、日曜は、午後3時から午後7時までの間、販売ができなかったんだよ」とのことでした。それでは今日はこの辺で。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成27年9月27日 るり子



とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の27歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英3年2ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。