徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年9月18日
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何ゆえ、英国旗はユニオン・ジャックの名で
親しまれておりますの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 月日が流れるのは本当に早いもので、わたくしがこちらに参りましてから、ちょうど1年が過ぎました。英国生活2年目、気持ちを新たに勉学に励む所存でございます。お父様、お母様、応援していてくださいませね!
  さて今日は、英国の国旗についてご報告したいと思い、筆をとりました。英国旗といえば、各種式典やイベントで掲げられる以外にも、ときには個人宅の窓に飾られたり、土産物のデザインに取り入れられたりするなど、目にしない日はないほど。先日、友人の家を訪ねたところ、彼女の大家さんである老婦人が、国旗が描かれた手作りのカップ・ケーキをご馳走してくださったのですよ。
  そのケーキを味わいながら、ある疑問が頭をよぎりました。英国旗は「ユニオン・ジャック」の名で広く親しまれていますが、この愛称は何に由来するのでしょう。調べてみることにいたしました。
  英国旗が誕生しましたのは、1603年にイングランドとスコットランドが同君連合となったのを受けてのことだそうです。06年、イングランド国旗に用いられる白地に赤い十字のセント・ジョージズ・クロスと、スコットランド国旗である青地に白い斜め十字のセント・アンドリューズ・クロスを組み合わせたデザインが採用され、現在の英国旗の原型が作られました。
  およそ200年の歳月を経て、1801年にアイルランドが併合されると、今度はアイルランドを象徴する、白地に赤い斜め十字のセント・パトリックス・クロスが組み合わさります。これにより、現在使われております英国旗が制定されるにいたりました。国旗にウェールズが含まれていない理由は、最初の国旗が誕生した際、ウェールズがすでにイングランドに併合されていたからなのだそうです(ウェールズ国民の心情を察するとお気の毒でなりません)。
  それはそうと、各国の国旗が結合していることからユニオンと呼ばれることは明らかですが、「ジャック」については、どうしてその名がついたのでしょう。王室関連の資料をあたってみますと、諸説あることがわかりました。
  ひとつめは、英国旗が誕生した1606年、時の王ジェームズ1世の名に由来するというもの。ジェームズのラテン語名はジェイコブでございます。その略称がジャックであることから、ジェームズ王の旗を意味したようです。
  このほかに、チャールズ2世の治世(在位1660~85年)にこの名が広まったとする説もございます。同王により、英海軍の船の艦首でのみ英国旗を掲げることが宣言されました。艦首に掲げる小さな旗は英語で「jack」と呼ばれることから、この名が定着したとするものです。この説に沿うならば、軍艦に掲げられた場合にのみユニオン・ジャックと呼ぶことになりそうですね。
  英国旗にまつわる興味深い話はほかにもございます。国旗のデザインをよく見てみますと、左右対称ではないことがわかります。これは、スコットランドとアイルランドを平等に扱うために用いられた、「カウンターチェンジ」という手法なのだそうです。何も知らずに英国旗を描いてしまいますと、「上下逆さまだった…」という間違いも起こりうるようです。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年9月14日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英1年。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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