徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年9月11日
pen

何ゆえ、英国では私立の寄宿学校を
「パブリック」スクールと呼びますの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 お父様、お変わりありませんでしょうか? 今回は英国の教育制度についてご報告したく、筆をとりました。
 先日、イタリア人の友人ジュリアと一緒に、イングランド最古の首都といわれるウィンチェスターに行ってまいりました。アーサー王の円卓があるグレートホールや大聖堂などに足を運んだ後、13~18歳までの男子生徒が在籍する名門パブリック・スクール、ウィンチェスター校(Winchester College)の見学ツアーに参加し、とても興味深く校内を拝見させていただきました。ツアー中に黒いローブを身につけた生徒を見かけたのですが、ローブを羽織っている生徒は、学内でもとくに優秀な特待生なのだそうです!
 それにしましても、格式高く、裕福な家庭に生まれた優秀な子息たちが集まる私立のエリート校を、なぜ英語で「公立」を意味する「パブリック」と呼ぶのでしょうか。疑問に思い、調べてみることにいたしました。
 日本では、1872年に誰もが等しく学べるようにと公教育制度がスタートし、第二次世界大戦後の1947年に小学・中学・高校の「6・3・3制」が打ち立てられたとのこと。それにともない、6~15歳までの9年間が義務教育と定められました。
 一方、英国では1870年に「初等教育法」が制定され、日本とほぼ同時期に公教育がはじまったとされていますが、実はこの時点ですでに数多くの学校が存在しており、この法令は教育機関を公的に整備し、制度として確立するものにすぎなかったようです。つまり、英国は日本よりもずっと長い公教育の歴史があるのです。しかし、現在の教育体制に定まったのは1944年、5~16歳までの11年間(!)が義務教育となったのは1964年でした。
 英国の教育制度は少々複雑です。英国では公立校を「ステート・スクール(State School)」、私立校を「インディペンデント・スクール(Independent School)」と呼び、寄宿制の学校であるパブリック・スクールはインディペンデント・スクールに属します。日本の「6・3・3制」のように修学期間が統一されてはおらず、公立と私立、また各学校によって通学年数はさまざまなのだとか。
 パブリック・スクールの起源は、中世にまでさかのぼります。中世では孤児院・養老院と並んで、貴族階級の人々が慈善活動の一つとして学校を建設していました。一定数の貧しい子どもを無料、あるいはわずかな授業料で入学させることが学校設立の規則として決められており、14世紀後半以降、英国全土から入学希望者を募ったことから「パブリック」(公共的)という呼称になったそうです。しかしながら、こうした「誰もが入れる」という意味は次第に変容し、学校も淘汰され、現在まで続く長い歴史と伝統をもつ「寄宿制のエリート私立校」という意味となっていったとのこと。
 ちなみに、わたくしが見学したウィンチェスター校は、パブリック・スクールの中で最古の学校であり、1382年に創設されたそうです。
 それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年9月7日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英11ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

ruriko