徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年9月4日
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何ゆえ、地下鉄の24時間運行が
実施されようとしていますの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 9月になり、確か古典の授業で習いました「目にはさやかに見えねども…」というフレーズを思い起こさせる気候となりました。まさに秋の訪れを「はっきりと見た目にわかるわけではないものの」感じる心境です。日本はいかがでしょうか?
 さて本日は、ロンドンの公共交通機関についてご報告したく、筆をとりました。このテーマについてはこれまでに何度も触れてきましたが、まだまだ興味(不満?)がつきない分野でございます。お付き合いくださいませね。
 少し前のお便りで、まもなくロンドン地下鉄の24時間運行が始まると記しましたのをご記憶でしょうか。金曜と土曜、主要な5つの路線に限り、夜間運行が実施されようとしています。今後ますます利便性が高まることが期待されますが、ロンドンは、午後11時ごろには閉店する飲食店が多く、大都市には珍しく「眠る街」と称されることもございます。これに加え、すでにナイト(夜間運行)バスが大いに発達しておりますので、たとえ終業が深夜になる方や、夜遊びに夢中になる若者でも、タクシーに頼らずとも、バスでの帰宅が可能でございます。同じ英語学校に通う日本人の友人は、授業の後、深夜までレストランでアルバイトをしていますが、「東京に比べて、夜の公共交通が充実している」と感心していました。
 こうしたロンドンの状況をふまえますと、地下鉄の24時間運行は「本当に必要なのかしら…」と、疑問を抱かずにはいられません。そこで、いつもの好奇心から調べてみることにいたしました。
 ロンドン地下鉄によりますと、過去15年間の地下鉄利用者の増加率は、日中に比べ、夜間は2倍の勢いがあり、また、ナイト・バスを利用する人も73%増えたとのこと。これらのデータを元に「需要がある」と判断され、サービス実施が決定されたようです。
 同団体の試算では、経済効果は推定3億6000万ポンド。夜の街を活性化し、経済効果を得ることが最大の狙いのようです。
 一方、ロンドン在住者の反応は、約8割が同サービスを支持しているとのこと。かなり高い数値ですが、「ガーディアン」紙では、決定を嘆く(?)声が紹介されていました。ひとつは、パーティーなどで、退屈な話を切り上げるための「終電なのでそろそろ…」という口実が使えなくなるというもの。他にも、「ナイト・バスで繰り広げられる乗客らの人間ドラマはロンドンの魅力」などとし、バス利用を推進する声もございました。
 当初の予定では、今月18日からラグビーW杯が開催されるのに先駆けて、12日からサービス開始と発表されていました。ところが、労働条件の面でロンドン地下鉄と労働組合との間での折り合いがつかず、開始日の延期が決定。大々的に宣伝が行われていましたので、提唱者のジョンソン市長の面目は丸つぶれというところでしょうか。
 無事にサービスが開始されましたら、ロンドンも「眠らない街」へと変化するのかもしれません(ちなみに、わたくしが深夜の地下鉄を利用して遅くまで出歩くことは決してございませんので、ご安心くださいませね)。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年9月1日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英11ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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