徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年8月21日
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何ゆえ、英国の舗道や道路には

巨大な水溜りがすぐにできてしまうんですの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 さて、本日もひとつご報告させていただきたく筆をとりました。
 英国には「猛暑」と呼ばれる暑い日がほとんどなく、不快なほどの暑さを感じることはまずございません。これはわたくしが気に入っております英国の気候の特徴のひとつに挙げられます。しかし、一般的にいわれるように天気が変わりやすく、雨の降る回数が多いことには閉口いたします。
 さて、その雨なのですが、少しまとまって降った後、必ずと言っていいほど目にするある光景に、わたくしは驚きさえ覚えずにはいられません。それは、舗道や道路にできる、大きな水溜りを人や自動車がよけながら(よけてくれない自動車も少なくありませんけれど)通るという光景です。いえ、「水溜り」というような可愛らしいものではなく、小さなプールと言うべきかもしれません。
 先日も、ロンドンの中心部の目抜き通りオックスフォード・ストリートの近くに大きな水溜りができているのに出くわしました。そして友人とのおしゃべりに夢中になっていたわたくしは、その水溜りに足を踏み入れてしまったのです。深さはくるぶし近くまであったでしょうか。お気に入りだったブラウンの靴がすっかり台無しになってしまい、とても悔しい思いをいたしました。
 降雨量は予想が可能でしょうに、なぜ、それに見合うだけの水はけを計算した道路づくりができないのでしょう。
 興味がわきましたので、ロンドン最大の繁華街を統括するウェストミンスター・カウンシル(区議会)に電話をかけてみました。
対応してくださった方にわたくしの疑問をお話ししましたら、丁寧に答えてくださいました。
 道路は水はけのことも考え、ある程度の傾斜をつけながらも路面はあくまでも平らになるようにつくられているとのこと。しかし、時間がたつと、その上を行き交う車や人の重みで疲弊し、平らでなくなっていきます。また、水道、ガス管などの工事もしばしば行われますから、路面にくぼみ、あるいは盛り上がった部分ができ、ますます凹凸が生じてこれらが路面の「洪水(flooding)」を引き起こすもとになるという訳です。
 交通量の多い道路ほど疲弊し平らでなくなりやすいのですが、頻繁に修理工事を行うのは、交通渋滞という問題を招くとともに何より費用(もちろん人々からの税金でまかなわれます)がかかり、現実的とはいえません。そこで、本当に「洪水」状態がひどく、なおかつ人々の苦情も多いところから手をつけるというのが現状のようです。
 もし、ひどい「洪水」状態になっている場所を見つけたら、とにかくまずは各カウンシルに連絡してほしいとのことでした。それからインスペクター(調査官)が派遣され、どのように対処するかが決められるそうですが、ここで「修復すべき」と判断されるとは限らないとか。どんなに、その状態が自動車や人々の往来を妨げているか、そのレベルを判断するのがインスペクターの仕事ということでした。
 わたくしの靴を水浸しにした、あのくぼみが修復されるといいのですが、どうなることやら。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年8月17日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英11ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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