徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

何ゆえ、英国の朝食は ボリュームたっぷりなんですの?

2015年7月31日

徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、「イングリッシュ・ブレックファスト」という言葉をお聞きになったことがありますでしょうか? 英国の伝統的な朝食のことで、「フル・ブレックファスト」とも呼ばれており、最近はこちらの呼び名が浸透しつつあります(「イングリッシュ」は「イングランド人の」という意味ですので、他の英国の地域、つまりスコットランドやウェールズ、アイルランドの方々にとっては、あまり愉快な名称ではないのでしょう)。

さて、この英国式朝食ですが、次のようなスタイルが一般的です。 ・新鮮なオレンジ・ジュースか、グレープフルーツの半実
・シリアル(コーンフレーク)にミルクをかけたもの(スコットランドなどでは、燕麦の加工品であるオートミールの粥、ポリッジの場合もあります)
・ベーコン・エッグとソーセージ、焼きトマト、マッシュルーム、ベークトビーンズ(大豆のケチャップ煮のようなものです)、ブラック・プディング(血入りソーセージ)などを一皿に盛ったもの
・カリカリに焼いたトースト数枚とバターやジャム
・コーヒーか、紅茶

これだけの量がありますと、「食欲旺盛」と驚かれるわたくしでも、さすがにお腹が一杯になってしまい、フル・ブレックファストをいただいた日は昼食を諦めることもしばしば…。

それに対して、「コンチネンタル・ブレックファスト」と呼ばれる英国以外のヨーロッパ大陸の朝食はシンプルで、たとえばクロワッサンとカフェオレでおしまい、という具合です。

このボリュームたっぷりの英国式朝食は、一体どなたが考案されたのでしょう? きっと身体の大きな男性に違いないわ…!などと想像しつつ、調べてみることにいたしました。

フル・ブレックファストの起源は、18世紀にさかのぼるようです。それまではハムやチーズといった調理済みの食品を、ミルクやエール(ビールの一種)と供に食すのが普通だったとか。

やがて農業の発達にともない、農夫たちのあいだで、ポリッジ、バターつきのパン、卵、豚肉からとれるベーコンやソーセージといった、自分たちの農場で手にできるものを朝食として食べるようになったそうです。

その頃の農作業は肉体を酷使する重労働でしたので、しっかりと朝食をとらないと体調を保つことができません。また、満腹感が持続すれば昼食を抜いたり、チーズやパンで簡単に済ませたりすることができ、夕食まで効率よく働くことが可能と考えられていたとのこと。食事よりも仕事の能率を重視するとは、「質実剛健」な当時の英国らしい選択だったと言えるのではないでしょうか。

もちろん、小作農民はそこまで豊かではなく、ベーコン・エッグが朝食の食卓にのぼるのは贅沢なことだったようです。

朝食ひとつをとっても、深い歴史と意義が秘められているものだと感じた次第です。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成27年7月8日 るり子



とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の27歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英3年2ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。