徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年7月10日
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何ゆえ、寄付を強要されねばなりませんの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 ロンドンも本格的な夏の到来です。夏を快適に過ごすために、わたくしは上品なバラの模様があしらわれたサマードレスを購入しました(とても気に入っておりますので、今度写真を撮ってお送りいたしますね)。ところで、買物に出かけた際に、どうしてもお聞きいただきたいことがまた起こりましたので、こうして筆をとりました。
 英国がチャリティの国であることはすでにご存知のことと思います。ただ、その「チャリティ」で先日、とても不愉快な思いをしてしまったのです。ハロッズの近くを歩いておりましたら、恰幅のよいご婦人が歩み寄ってきました。と、いきなり小さな小さな花束をわたくしのジャケットのポケットに押し込みつつ、街頭寄付用の入れ物を差し出し「寄付をお願いします」とおっしゃるのです。
 ずいぶん強引なご婦人だとは思いましたが、花束を受け取らされてしまった手前、断るのもためらわれましたので、50ペンスを寄付しようといたしますと、「少なすぎますよ! 1ポンド以上になさい」と、叱られてしまったのです! しかし文句を言うのも花束を突き返すのも躊躇され、かといって1ポンドを支払う気もなく(日本円にして200円弱のこと、などとはおっしゃらないでくださいませね。納得のいかないことには使いたくありません)、引っ込みのつかなくなった50ペンス硬貨を入れ物に押し入れ、その場から逃げるようにして立ち去りました。
 エドワーズご夫妻にこの話をいたしましたら、一緒に憤慨してくださりながらも、「るり子、あなたは『ノー』というべきでしたね」と諭されてしまいました。こうした「おしつけチャリティ」を行っている人々の中には、どうやらそれで私腹を肥やしている人もいるようなのです(その人が助かっているのですから「チャリティ=慈善」といえば「チャリティ」ですが……)。
 後日、「チャリティ・コミッション」という団体があるのを知り、電話をかけてみました。「チャリティ団体」には登録団体と未登録団体があり、未登録団体が寄付を集めてはいけないという法律はないそうです。しかしながら、例えばロンドン全域を対象とした路上募金活動に関してはロンドン警視庁の管轄で、申請後、厳しい審査を経た上で、地区毎に1年に1日のみ(年間最大で4回)許可されるということです。なお、「きちんとした」チャリティ団体の活動員は通常、身分証明書を携帯しているとのことでした。
 わたくしの体験したことをお話しいたしますと「寄付をするかしないかはあなた次第ですが」と断りつつ、例えば、①チャリティの団体名、登録番号、寄付金の使い道など、納得がいくまで尋ねる、②身分証明書の提示を求める、③聞いたことのない団体だった場合は「寄付金の送付先を教えてください。小切手で送ります」と答え、あとで「チャリティ・コミッション」などに確認する、といった方法が考えられるので、「ノー」と言いづらいからといって、いやいや寄付をするのは絶対にやめるようにと励ましてくださいました。
確かに「ノー」の一言を口にするのは日本人であるわたくしにとって、容易なことではありませんが、もし同じことが起こったら、今度は勇気をだして「ノー」と言おうと心に誓った次第です。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年7月7日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英9ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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