何ゆえ、偽造紙幣は正規のものと交換してはもらえませんの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
お父様お変わりありませんでしょうか? ここのところ、日が本当に長くなり、夜9時でも十分に明るいのです。一年で昼がもっとも長くなる夏至の日(今年は6月22日です)まで、まだひと月ほどありますから、これからますます夜が来るのが遅くなることでしょう。何とはなしに心が浮き立ってしまい、学生として気を引き締めなければと思っている次第です。
さて今日は、少々無粋ではございますが、お金のお話をさせていただきたく筆をとりました。
先日、わたくしの友人が買い物の際、20ポンド紙幣を差し出しましたところ、店員に「これはニセモノなので、受け付けられません」と支払いを拒否されてしまいました。もちろん、偽造紙幣にまつわる犯罪などとはまったく無縁の彼女は大いに驚き、とりあえずその20ポンド紙幣を最寄りの銀行に持っていくことにしました。正規のものと交換してもらおうと思ったのです。
ところが、銀行では「警察へ行き、レポート(通報)してください」とのこと。彼女の20ポンドはどうなるのですか? と尋ねましたら、「証拠として没収されます」とおっしゃるのです! 偽物とは知らずに受け取ってしまったものを警察へ届け出ただけですのに、一方的に損失を被ってしまうのは、不条理としか言いようがございません。わたくしは彼女の20ポンドを救う方法がないか、調べてみることにいたしました。
日本でいえば日銀に相当するイングランド銀行(Bank of England)の広報担当者に問い合わせましたが、やはり「偽造紙幣(forged notes)は警察に持っていくべきです」と告げられました。知らずに受け取ったとしてもそれを立証するのは難しく、偽造紙幣を計画的につくり、「知らずに受け取った」と銀行に持ち込む犯罪を防ぐためだそうです。わたくしの友人のケースについても、「お気の毒ですが、その20ポンドは(正規のものと交換されることなく)没収になります」。また、偽造紙幣とわかってから使おうとした場合は、「立派な詐欺罪(fraud)になりますよ」と言われてしまいました。
思い返せばロンドンに参りましたばかりの頃、お店での支払いの際に、お札の透かしを確認したり、特殊なペンを使って偽造紙幣ではないかを調べたりする店員に、「わたくしが偽札を使うような人物に見えるのかしら!」と憤慨することがございました。ですが、それも損失を出さないための自己防衛だったと思えば、彼らの行動も納得がいきます。それだけ英国では、偽造紙幣が多く出回っているということなのでしょう。
ちなみに日本では、偽造紙幣が警察に持ち込まれた場合、その紙幣と同額程度の謝礼金を支払わなければならないとする法律が、1977年に制定されています。ただ、これは正規のものとの交換というよりも、犯罪の捜査協力に対する謝礼という意味合いのようです。
友人には観念して警察に行くことをすすめるしかなさそうですが、何の罪もない彼女が、このように損をすることになってしまい不満を抱かずにはいられません…。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成27年5月18日 るり子



















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