徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年5月1日
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何ゆえ、英国の祝日は
『バンク・ホリデー』と呼ばれるんですの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

 前文お許しくださいませ。
 お父様もお母様もお変わりありませんでしょうか? さて本日も、ひとつ興味深く思いましたことをご報告したく筆をとりました。
ここ英国では、3月半ばごろから5月の末までに連休が必ず3回めぐってまいります。まずはイースターにちなんだ連休。そして5月に入りますと、メイデー関連のバンク・ホリデーが第一月曜日にあり、さらに5月の最終月曜日が「スプリング・バンク・ホリデー」という名でお休みです。
 この後、8月の最終月曜日に「サマー・バンク・ホリデー」(スコットランドは例外です)があり、それからクリスマスまで祝日なし、という日々が続きます。ただし、以上のお話は、あくまでもイングランド中心。英国ではこれ以外に、地域ごとに独自の祝日を設けている場合もあり、それが認められていること自体が「連合王国」である英国らしい特徴ともいえますね。
 さて、イースターやクリスマスなどの宗教的意義のある日は、祝日となる理由が明白ですが、「バンク・ホリデー」とはそもそもどのような形で始まり、なぜその名で呼ばれるようになったのでしょう。いつもの好奇心から調べてみることにしました。
今回集めた歴史的資料などを総合いたしますと、次のような経緯によるようです。
 英国で、一般の人々も利用できるようなカレンダーが採用されたのが1752年のこと。その際にイースターとクリスマスという宗教関連の祝日は盛り込まれていたそうです。件の「バンク・ホリデー」が登場するのは、ヴィクトリア朝時代(1837~1901年にあたります)に入ってからのことといわれ、「バンク」と名前のつく通り、もともとは銀行で働くスタッフのためだけのものだったと説明されています。
 当時の英国では、高度成長期時代の日本なみ、あるいはそれ以上に長時間・重労働が当然で、小売店で働く人々の健康を守るために日曜日に店を開くことを禁止するにいたるなど、今の英国からは想像できないような労働環境がまかりとおっていた模様です。
 ロンドンの金融街シティでも、世界の金融の中心地のひとつとして人々はさぞや忙しく働いていたことでしょう。特定の日を選び(日・月と連休になるよう、月曜日が選択されたとのこと)銀行業務を休止する措置がとられるようになりました。これは徐々に人々の暮らしに浸透し、「バンク・ホリデー」の名前が、1920年、ついにカレンダーに記されるにいたったとのことです。
 ただ、法制化されたのはずいぶん遅く、1971年のことでした。しかも対象は銀行のスタッフだけで、他の業種の労働者たちには「自動的」に休暇が認められたわけではなかったそうです。とはいえ、少なくともわたくしが知る限りでは「バンク・ホリデー」といえば、日曜日と同様の休日。学校もお休みです。習慣が法的に有効なものと同様の扱いを受けるようになることがある、という英国文化の好例といえそうです。
 ただ、今朝の新聞で、「次のバンク・ホリデーでは、一部銀行の店舗で営業が行われ、長年の伝統が失われる」という内容の記事が掲載されておりました。もはや「バンク」ホリデーとは言えなくなってしまうのでしょうか…。これも時代の要請なのかもしれません。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年4月28日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英7ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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