徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年4月14日
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何ゆえ、外壁だけを残して
工事が行われますの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。
先週末の英国では、スポーツ・イベントが目白押しでした。国民から大きな関心が寄せられる障害競馬「グラン・ナショナル」、オックスフォード大とケンブリッジ大が競う伝統的ボートレース、サッカーではマンチェスター・ユナイテッド対マンチェスター・シティの地元対決など…。どこへ行くにもスポーツの話題でもちきり。幸い好天に恵まれましたので、ファンの皆さんはさぞや楽しまれたことでしょう。
さてスポーツとはまったく関係のない話でございますが、英国についてまた新たな発見をいたしましたので、ご報告いたします。
数週間前、大英博物館からバスに乗り、ロンドンの目抜き通りであるオックスフォード・ストリートにさしかかったところで、ある工事が行われているのを目にしました。ロンドンのあちこちで工事が実施されていますので、見慣れた光景ではございましたが、よく見てみますと、どうやら通りに面した壁だけを残して作業が進められているようなのです。窓枠からは奥の青空や、向こう側の建物が顔をのぞかせており、まるでだまし絵のような、とても奇妙な光景が広がっていたのです。気になりましたので、家に戻りましてから調べてみました。
同地区を管轄するウエストミンスター・カウンシルによりますと、工事中の敷地にあった建物群の中には、遺産として残す価値ありと思われる建物や、「リステッド・ビルディング(Listed Building)」という保護指定された建物も含まれていたことから、保存の必要があると判断されたとのことでした。
この「リステッド・ビルディング」の存在について、 ロンドンの観光名所となっております「バッキンガム宮殿」や「タワーブリッジ」を訪れた際にも耳にしたことがございます。ですが、繁華街にあり、名所とされているわけではない建物までも指定されているとは!
さらに興味が沸きましたので調べを進めてみますと、リステッド・ビルディングとは、特別な歴史を有する、または建築的観点からみて重要と判断される建物が指定されるとのこと。この考え方は、第二次世界大戦中に「もし爆弾で被害を受けた場合、どの建物から再建すべきか」を決める際に導入されたのだそうです。重要度によりグレードⅠ、Ⅱ、Ⅱのランクに分かれ、その数は全国で50万件にものぼるとのこと。ただ、外壁一枚が保存対象となるケースは珍しく、基本的には建物内観、外観のすべてにおいて、改修・改築にあたって厳しい規制が敷かれているようです。
稀に外壁だけを残す場合、取り壊して新築するよりもはるかに予算がかかるばかりでなく、もともとの建物に関する膨大な知識も必要となり、とにかく骨が折れる仕事であることもわかりました。これまで交通や郵便などのサービスに対する不満や歯がゆさを何度もつづってまいりましたが、今回は、古き良きものを大切にしようという英国人の熱意に感服した次第です。
一言付け加えますと、件のオックスフォード・ストリートの建物は、ショッピング施設および住居ビルに生まれ変わるそうです。古きを大事にしながら、こうしてロンドンも日々変化を遂げていくのでしょうね。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。。

かしこ 
平成27年4月17日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英7ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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