徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年4月10日
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何ゆえ、英国では商品に
「定価」がありませんの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。
お父様、お変わりありませんでしょうか? イースターの4連休を利用して、友人のジュリアとスペインのアンダルシア地方を旅して参りました。グラナダのアルバイシン地区にあるセント・ニコラス展望台から早朝に眺めた、朝日にゆっくりと染まりゆくアルハンブラ宮殿の雄姿には心が震える思いがいたしました。お土産もたくさん購入いたしましたので、近々お送りしようと思っております。楽しみにしていてくださいませね。
さて、今日はまたひとつ疑問が解決されましたので、その件についてご報告いたします。
わたくしが甘いものに目がないのは、お父様もよくご存知のことと思います。英国は「キットカット」を生んだ国だけあり、チョコレートバーなどの「コンフェクショナリーconfectionery」と呼ばれるスナック菓子が豊富です。子供や女性ばかりでなく立派な紳士の方も、スーパーや駅の売店・自動販売機などでチョコレートバーを買い求めていたり、歩きながら頬張っていたりする姿を目にいたします。渡英した当初はとても驚きましたが、キットカットは「ランチボックスと一緒に職場に持っていける、食べやすいチョコレートバーがほしい」という男性からの要望で誕生したそうですので、英国の食文化のひとつと申してもよいのかもしれません。
このチョコレートバーですが、実は買う場所によりずいぶんと値段が異なるのです。たとえばキットカットは、スーパーでの販売価格は大抵60ペンスですが、ニュースエージェント(新聞やスナック菓子、飲料、タバコ等を扱うキヨスクのようなところです)の場合、店によって70ペンスだったり、75ペンスだったり…。わずか数ペンスのことですが、英国に来て自分でお金を管理するようになりましてから、小額とはいえ、その違いがとても気になります。不思議に思って商品をよく見てみますと、パッケージに「定価」の表示がないのです! これでは知らずに値段の高い場所で購入し、大きく損してしまうこともあり得ます。消費者は保護されていないのでしょうか? 英消費者組合「Which ?」に問い合わせてみました。
担当の方によりますと、英国では1964年、書籍・新聞・地図・クスリ以外のものには「定価」や「希望小売価格」を記してはいけないという法律ができたのだそうです! 小売店どうしで価格競争を行わせて、消費者の利益を図ることを目的とした法律とのこと。ですので、商品を大量に安く仕入れることができるスーパーに対し、小さなニュースエージェントなどは「必要なものを必要な分だけ」仕入れるため、スーパーよりも若干割高になってしまう上に、店によって値段が変動するというわけです。つまり、消費者は商品が安く買える店を自分で探し、上手にお買い物しなさい、ということなのでしょう。
なお、お父様のお好きなタバコも「定価」がなく、店により値段に違いがあることも付け加えておきますね(これは友人から聞いた話です。わたくし、タバコは絶対に吸っておりませんので、ご心配なさいませんように!)。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年4月7日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英6ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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