徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
2015年3月26日
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何ゆえ、英国ではサマータイムが
                                  導入されましたの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ
徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。
1月は行く、2月は逃げる、3月は去る…とはよく申しましたもので、瞬く間に今月も終わりを告げようとしております。英国に参りましてから早半年、時を疎かにせず英語の習得に励まなければ、と決意を新たにしているところでございます。
さて、最近「Spring forward, fall back(春に進めて、秋に戻す)」という表現をしばしば耳にします。これはサマータイム(夏時間)についての慣用句で、「春には時計の針を1時間先に進めて、秋には1時間戻しましょう」という意味なのですが、英国ではその「針を1時間先に進める時刻」、つまり「サマータイムの開始時刻」は、毎年3月最終日曜日の午前1時となっています。そして、7ヵ月後の10月最終日曜日の午前2時に1時間針を戻し、サマータイムが終了いたします。日照時間を有効に活用することを目的としており、現在、欧米諸国など約70ヵ国が実施しているそうですが、日本ではあまり馴染みがございません。サマータイムのスタートを今週末に控え、一体どのようにして英国でこの制度が導入されることになったのか興味を覚え、調べてみることにいたしました。
いくつかの資料をあたりましたところ、サマータイムの起源は米国の政治家・著述家ベンジャミン・フランクリンが、1784年に発表したエッセイの中で、日光を有効利用した生活を提唱したのが最初とされているようです。しかし当時は重要視されることはなく、それから120年ほど後に英国人建築業者ウィリアム・ウィレットの提言によって注目を浴びることになります。
その経緯を簡単にまとめますと、ある晴れた夏の日の朝、ウィレットが町を散歩したところ、すでに太陽がのぼっているにもかかわらず、多くの家のよろい戸は閉められ、人々がまだ眠っていることに気付きました。「創造主からの贈り物である日光を浪費している!」と感じたウィレットは、1907年に著書「The Waste of Daylight」を刊行し、国家プロジェクトとして時間調整することの意義を説きました。ただ、彼の提案は現在の制度と少々異なり、4月から合計80分、つまり4回に分けて20分ずつ針を進め、9月にそれを元に戻すというものだったそうです。
この案はウィンストン・チャーチルらの賛同を得て、英議会で取り上げられるものの、実際に採用されたのは第一次世界大戦中の1916年のこと。照明等の燃料消費を抑えるため、最初にドイツ、追って英国が導入に踏み切りました。残念なことに、法案の可決を見届けることなく、ウィレットはその前年に亡くなっています。これ以降、英国ではサマータイムが用いられ、なんと第二次世界大戦中には「ダブル・サマータイム」(針を2時間進める)を行っていた時期もあったとか。ちなみに、かつて日本でも第二次世界大戦後、米国占領下にあった1948~1951年の4年間、サマータイムを導入していたそうです。
「○○の発祥地」というと、かなりの確率で名が挙げられる英国。サマータイムも英国人が提唱したものと知り、あらためて「大英帝国」の底力を実感した次第です。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ 
平成27年3月24日 るり子

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の24歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英6ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

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