何ゆえ、ビスケットを紅茶に 浸して召し上がりますの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
暖かい日が続いたかと思えばまた寒さが戻ってきました。春に向けて『3歩進んで2歩下がる』といった調子ですが、これが英国の気候なのでしょう。暖かくなったと感じても油断せずに過ごしたいと思います。 さて、今日もまた英国と日本の違いについて調べたことをご紹介したいと思います。
先日、英語学校の友人宅を訪ねました。彼女の住む家の家主である英国婦人がお茶をいれてくださいましたので、3人で紅茶を飲みながら、おしゃべりに興じていたときのことです。お話の最中で、その婦人はビスケットを手に取ると、紅茶にどっぷりと浸して、召し上がってしまわれたのです。私がまだ幼かった頃、「パンの耳を牛乳に浸したら美味しくなるのかしら」と試してみた際に、おばあ様から「お行儀が悪い」といってひどく叱られた経験がございます(お父様もご記憶ですよね)。
それだけにひどく驚きましたが、婦人の動作があまりに自然だったものですから、わたくしとしては、「なぜ浸されるのですか?」と尋ねずにはおられませんでした。すると少し意外そうな顔をなさった後、笑顔で「こうしてやわらかくすると、口の中でとろけますよ。やってご覧なさい」とお答えになるのです。以前、映画でもそのようなシーンを観たことがありましたが、改めて目の前で拝見しますとやはり気になり、詳しく調べることにいたしました。
浸す行為は「ダンキング(dunk=浸す)」と呼ばれ、これをテーマにしたウェブサイトが多数運営されていました。新聞記事も多く書かれており、その起源について触れられているものがございましたのでご紹介します。
ダンキングは16世紀の海軍に由来するとのこと。当時、硬いパンのような形状だったビスケットは、乾燥していて腐りにくいことから、船上での保存食として配給されておりました。ですが保存を最優先に考えて作られたビスケットは非常に硬く、水分に浸してやわらかくしなければ食べられたものではなかったのだそうです。一説によるとビールに浸して食べたのだとか(ビールとビスケットで大英帝国がつくられた! と大げさに表現する人もいるようです)。その後の17~18世紀にはビスケットをワインに浸す習慣があったという歴史なども紹介されており、それが現在にまで名残をとどめているようです。
歴史だけでなく科学的側面から分析した記事もございます。人気の英国人シェフ、ヘストン・ブルメンソール氏が、「なぜ人々はビスケットを浸すのか?」について科学的な見地から解明し、浸すことでより高い香りが得られることを証明したのだそうです。
「ダンキング」について研究する紅茶メーカーや愛好家の間では、何秒間浸すか? どの銘柄のビスケットがダンキングに向いているか? という議論も真剣に行われているのですよ(ちなみに1位に選ばれたのはマクビティ社の「Rich Tea」というビスケットで、浸してもくずれにくいことが理由だそうです)。
ただ、タイムズ紙が掲載した調査結果では、英国人の52%がビスケットを紅茶に浸す行為を「マナー違反」としているとのこと。『こっそりと』試してみることにいたしましょう。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成27年3月17日 るり子



















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